ヴィーガン食を摂ったプロパワーリフターに関するケーススタディ

はじめに

パワーリフティングは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目の最大挙上重量の合計を競うスポーツです。
パワーリフティングは、階級制競技な上、同一階級で同記録の場合、体重の軽い選手が上位となります。
そのため除脂肪量(≒筋肉量)を高い水準で維持した上で体脂肪を出来る限り削減し、体重を過度に増やさないことが大切です。
実際、パワーリフティングの競技成績と身体組成との間には密接な関係があります。

当サイトでもたびたび取り上げているとおり、身体組成を効果的に改善するには、適切な栄養計画が必要です。
今回紹介するケーススタディは、ヴィーガン食を摂った男性プロパワーリフターを対象として、減量期6週間にわたる身体組成の変化に着目しています。

ヴィーガンとはヴィーガニズムの実践者のことです。
ヴィーガニズムは、人間ができる限り動物を搾取することなく生きるべきであるという主義です。
ヴィーガン食は、一部の研究によって健康上の利点をもたらすことが示唆されている一方で、タンパク質や脂質、一部のビタミン・ミネラルの摂取量が低くなる傾向があり、誰もが気軽に実践できる方法とは言い難いのも事実です。
特にパワーリフティングのような筋肉量が競技パフォーマンスと関係するアスリートにおいては、筋肉量の維持・増進のためにはヴィーガン食は適していない可能性も考えられます。

論文概要

出典

Hernández-Martínez, C., Fernández-Rodríguez, L., Soriano, M. A., & Martínez-Sanz, J. M. (2020). Case Study: Body Composition Changes Resulting from a Nutritional Intervention on a Professional Vegan Powerlifter. Applied Sciences, 10(23), 8675.

事例の詳細は下記のとおり

【方法】
対象者は世界選手権出場経験を有する男性プロパワーリフター

栄養介入期間は6週間
最初の4週間は体脂肪減少を目的とした中程度のエネルギー制限(計算上のエネルギーバランスよりも16.5%削減)、後半の2週間は維持期間

実際の栄養摂取量は最初の4週間が2188kcal/日(34kcal/kg FFM/日)、糖質3g/kg/日、タンパク質2.2g/kg/日、脂質0.8g/kg/日
後半の2週間が2730kcal(42kcal/kg FFM/日)、糖質4.7g/kg/日、タンパク質1.8g/kg/日、脂質0.95g/kg/日
食事メニューはアスリートの好みを考慮して決定
ヴィーガン食や生活スタイルに由来する潜在的な欠乏リスクを考慮し、ソイプロテインパウダー、クレアチン、ビタミンB12、ビタミンD、n-3脂肪酸といったサプリメントを摂るように指示

形態・身体組成(生体電気インピーダンス方法)を1週目と6週目で評価

1日の総エネルギー消費量(Total Daily Energy Expenditure (TDEE)は下記の式で推定
TDEE (kcal/day) = (基礎代謝率×非運動性熱産生) +食事誘発性熱産生+運動によるエネルギー消費量
非運動性熱産生は余暇活動に応じて1~2で計算
運動によるエネルギー消費量は1セッション当たり200-300kcalで計算

満腹感、栄養計画の順守状況、トレーニング状況、その他の症状などは、毎週の頻度で電子メールを通して調査

【結果】
・計画された食事の遵守率は90-95%
・体重は79.3kgから77.4kgに減量、最初の4週間の週当たりの体重減少量(率)は0.470g(0.59%)
・体脂肪量は15.0kgから11.4kgに減量し、除脂肪量は64.3kgから66.0kgに増量
・ヒップ周径囲は89.0cmから84.0cmに減少、ウエスト周径囲は99.2cmから97cmに減少

・期間中を通して対象者は、トレーニングが通常通り実施できたとともに、食事による満腹感と利用可能なエネルギー不足の程度が低かったことを報告

解説

このケーススタディは、エリートレベルのパワーリフターを対象として、ヴィーガン食を用いた短期間の減量前後の身体組成を報告しています。
その結果、体脂肪は減少し、除脂肪量は増加していたことから、身体組成の再構築(リコンポジション)が起きていました
また、このアスリートは6週間を通して食事による満腹感を感じていたとともに、減量期で問題となる利用可能なエネルギー不足(Low-energy availability)をあまり感じていませんでした。

下記の表のとおり、対象者がとったヴィーガン食は、食品ならびにサプリメントから構成されており、緻密に計算されたものでした。

(引用:Hernández-Martínez, C., Fernández-Rodríguez, L., Soriano, M. A., & Martínez-Sanz, J. M. (2020). Case Study: Body Composition Changes Resulting from a Nutritional Intervention on a Professional Vegan Powerlifter. Applied Sciences, 10(23), 8675.)

また、減量スピードもリコンポジションを引き起こしやすいペースで遂行していました。
減量スピードに関する記事はこちら

対象者が1名のケーススタディのため、結果の普遍性は何とも言えませんが、工夫によってはパワー系競技のアスリートにおいても、ヴィーガン食は採用できるのかもしれません。

まとめ

緻密に計算されたヴィーガン食はパワーリフターの身体組成を改善させた