競泳選手が行うレジスタンストレーニングの最適量に関する一考察

はじめに

水泳選手が行うトレーニングのうち、陸地で行うものをドライランドトレーニングと呼びます。
今回はドライランドトレーニングの代表的な手段であるレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)について取り上げます。

競泳選手に限らず、競技アスリートは専門競技の練習で身体に多大な負荷が掛かるため、競技外のトレーニングの負荷量には注意を払うべきです。
たとえば、最大筋力向上を目的とした場合でも、筋トレのみしか行わないトレーニーと競技練習も行うアスリートでは、最適な負荷量は異なる可能性があります。

今回は競泳選手を対象として、異なるセット数で構成された筋力トレーニングプログラムの効果を比較検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Amara, S., Crowley, E., Sammoud, S., Negra, Y., Hammami, R., Chortane, O. G., Khalifa, R., Chortane, S. G., & van den Tillaar, R. (2021). What Is the Optimal Strength Training Load to Improve Swimming Performance? A Randomized Trial of Male Competitive Swimmers. International journal of environmental research and public health, 18(22), 11770. https://doi.org/10.3390/ijerph182211770

方法
筋トレ経験を有する全国レベルの未成年男性競泳選手を下記3群にランダムに分類
・High Training Volume Load Group(HTVLG)11名
・Middle Training Volume Load Group(MTVLG)11名
・Low Training volume Load Group(LTVLG)11名

介入期間は合計9週間(6週間:Intervention period、2週:Taper Period)
介入期間中の筋トレ内容は下記の通り
頻度:Intervention periodは3回/週、Taper periodは2回/週
種目:ベンチプレス、レッグエクステンション
強度:85-95%1RM
反復回数:3-5回
休息時間:3分(セット間、種目間)
セット数:HTVLG→5-6セット、MTVLG→4-5セット、LTVLG→3-4セット
その他:各セッションは10-15分間のウォームアップ後に実施

介入期間中は競泳トレーニングを7回/週の頻度で実施

介入期間前後に下記項目を測定
最大筋力:レッグエクステンション・スミスマシンベンチプレスの1RM
競泳パフォーマンス:25mクロール、50mクロール、スタートの速さ、ターンの速さ

結果
・レッグエクステンション、スミスマシンベンチプレスの1RMは時間による主効果あり、時間×群の交互作用なし
→全群で同程度の増加

・25mクロール、50mクロール、スタートの速さ、ターンの速さは時間による主効果あり、時間×群の交互作用なし
→全群で同程度の向上

解説

この論文は、未成年(平均年齢:約16歳)の競泳選手を対象として、異なるセット数の筋トレプログラムを9週間実施したところ、3-6セットの範囲であれば、最大筋力や競泳パフォーマンスに及ぼす効果は等しかったことを報告しました。

アスリートの中には、競技練習と筋トレの負荷を別々に扱う者もいます。
しかし、身体に与える影響は全負荷を合算し現れることもあり、過度なボリュームの筋トレは、リカバリーを妨げ、競技練習の質を落とす可能性があります。
仮にトレーニング効果が同じであれば、競技練習以外のトレーニング負荷は低い方が望ましいと考えています。
実際、論文の著者らは、ボリューム負荷を増やしても効果がアップしないのであれば、低負荷のプログラムの採用を推奨していました。

なお、この論文のプログラムは、レッグエクステンションとベンチプレスの2種目で構成されていました。
したがって、1回のセッションでの種目が増えた場合、今回と同じ結果が得られるのかは定かではありません。

まとめ

競泳選手の競技力向上を目的とした筋トレのセット数は3-4セットで十分なのかもしれない