社会人アスリートは、朝練がある日の睡眠時間が短くなる

はじめに

アスリートにとって量・質ともに十分な睡眠を確保することは、リカバリーの最適化に必要不可欠な取り組みです。
しかし、フルタイムで働く社会人アスリートや学業に取り組む学生アスリートは、トレーニング量の確保を最優先した結果、十分な睡眠時間の確保が困難となるケースもあります。

今回紹介する論文では、ウルトラスイム(超長距離水泳)に取り組むマスターアスリート達を対象として、睡眠データを測定しています。

ウルトラスイマーは、冷水環境で長時間泳ぐという競技特性もあり、低体温を防ぐ観点でBMIの高いアスリートもいます。
BMIの高い、過体重・肥満者は閉塞性睡眠時無呼吸のリスク因子ということを踏まえ、この論文ではBMIと睡眠データとの関連も検証しています。

論文概要

出典

Dunican, I. C., Perry, E. L., Gemma, M., Nesci, E., & Roberts, S. (2022). Understanding the sleep of ultra-marathon swimmers: Guidance for coaches and swimmers. International Journal of Sports Science & Coaching, 17479541221089385.

方法
19.7kmオーシャンスイムに出場を予定していた24名のマスタースイマーを対象
(男性:11名、女性:13名、平均年齢:39歳)

オーシャンスイムに向けたトレーニング期6週間(42晩)の睡眠データを手首装着活動計(Readiband)で計測
対象期間中、マスタースイマーは月曜日(5時30分-7時)、木曜日(19時00分-20時30分)、土曜日(6時-8時)に水泳トレーニングを実施

アンケート調査で下記指標を評価
形態:身長、体重、BMI

主観的健康度:5段階

リカバリーに対する睡眠への重要性:4段階

水泳経験:年数

主観的水泳能力:4段階

有害なアルコール習慣: Alcohol Use Disorders Identification Test(AUDIT)

不眠症:Insomnia Severity Index(ISI)

日中の眠気:Epworth Sleepiness Scale(ESS)

クロノタイプ:Morningness-Eveningness Questionnaire(MEQ)

睡眠時無呼吸症候群リスク:Berlin Questionnaire

心理的苦痛:Kessler Psychological Distress Scale(K10)

結果
■対象者の特性
2名が肥満(BMI30以上)
7名が不眠症の傾向(ISIのスコアが8-14)、1名が不眠症(同スコアが15以上)
1名が中程度の日中の眠気(ESSのスコアが13-15)、1名がシビアな日中の眠気(同スコアが16-24)
5名が睡眠時無呼吸症候群のリスクが高い
5名が有害なアルコール習慣
2名が中程度の心理的苦痛
1名が朝型タイプ、16名が中程度の朝型タイプ

■睡眠データ(平均値)
入眠潜時は17分
Time in bedは7.8時間
総睡眠時間は6.8時間
中途覚醒(Wake after sleep onset)は45分
睡眠効率は87%

■睡眠データと各指標との関連
BMIと総睡眠時間に有意な関連
→BMIが1ユニット上がると、5分少なくなる

・睡眠時無呼吸症候群のリスクと中途覚醒に有意な関連
リスクが低い場合に比べると、リスクが高い場合では21分多くなる

・起床時間と性別に有意な関連
男性で30分早い

■トレーニングのある日とない日の睡眠データ
朝練習のある日は起床時間が48分早く、総睡眠時間も39分少ない

解説

この論文は、社会人のウルトラスイマーを対象として、1) 睡眠データ、2) 睡眠データと各種要因との関連、3) トレーニングのある日とない日の睡眠データの違い、を検証しています。

1) 睡眠データ
Time in Bedが8時間未満(7.8時間)、総睡眠時間が7時間未満(6.8時間)、中途覚醒が40分以上(45分)という結果は、量・質ともに十分な睡眠が確保できていなかったと評価できます。
トレーニングに加え、家庭や仕事など生きていく上で必要なタスクが影響していたと思われます。

2) 睡眠データと各種要因との関連
BMIの高いアスリートや睡眠時無呼吸症候群のリスクの高いアスリートで睡眠データが悪い傾向にありました。
肥満になると、舌や喉の周辺にも脂肪が蓄積することで気道が狭くなるため、睡眠中の呼吸が止まりやすくなります。
ウルトラスイムの場合、体脂肪もある程度のメリットがあるため、BMIが低いことが一概に良いとは言えませんが、BMIの高いアスリートは睡眠時無呼吸症候群に関係する他の要因(生活習慣、飲酒、喫煙など)に特に気を配る必要がありそうです。

3) トレーニングのある日とない日の睡眠データ
朝練習のある日は、起床時間が早くなり、総睡眠時間が短い傾向にありました。
こちらも、1) 同様に、生きていく上で必要なタスクとの兼ね合いの関係で、どこまで改善できるのかは個人の置かれた環境によりますが、朝練習を週に数回行うアスリートは、前日の就床時間を早くするなどの工夫が求められます。
特にスイムトレーニングは、プールを利用する関係で、理想の時間でトレーニングが出来ない場合も多いようです。
その中で、トレーニングという刺激に心身が十分適応するために睡眠を最適化させる作業は必要不可欠と言えます。

まとめ

BMIが高く睡眠時無呼吸症候群の傾向があるアスリートは良質な睡眠を確保することに気を配ろう