体脂肪減少と筋肉量増加を同時に実現するアプローチ

はじめに

体脂肪を減らしながら筋肉量を増やすことを身体組成の再構築(リコンポジション)と呼ぶことがあります。
リコンポジションは、階級制スポーツや体重が競技パフォーマンスに深く関係する競技に取り組むアスリート、体重を増やすことに抵抗があるトレーニーにとって魅力的な手段です。

当サイトでは以前、異なる減量スピードが身体組成に及ぼす影響を比較検証した論文の結果をもとに、適度な負のエネルギーバランス(約-500kcal/日未満)とレジスタンストレーニング(筋トレ)による筋肉への十分な刺激を組み合わせることで、体脂肪減少と筋肉量増加を同時に達成できる可能性を述べました。

ただし、その際に引用した論文は、体重そのものも減少していました。

一方、今回紹介する論文は体重の変動なくリコンポジションに成功したアプローチです。

論文概要

出典

Antonio, J., Ellerbroek, A., Silver, T., Orris, S., Scheiner, M., Gonzalez, A., & Peacock, C. A. (2015). A high protein diet (3.4 g/kg/d) combined with a heavy resistance training program improves body composition in healthy trained men and women–a follow-up investigation. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 12, 39. https://doi.org/10.1186/s12970-015-0100-0

方法
73名のレジスタンストレーニング(筋トレ)経験を有する男女を対象

対象者は無作為に不均一に下記の2群に分類
正常タンパク質摂取群(Normal Protein: NP)
高タンパク質摂取群(High Protein: HP)
※不均一な割り当て目的は、高タンパク質摂取群は遵守率が下がり途中離脱数が増えると想定されたことや、高タンパク質食に関する追加的な情報を得るため

実験期間中の途中離脱などによって最終的なデータ分析対象者数は下記のとおり
NP:17名(男性13名、女性4名)
HP:31名(男性24名、女性7名)

介入期間は8週間

食事介入の詳細は下記のとおり
両群ともにスマートフォンアプリ(MyFitnessPal)を用いて日々の食事を記録
NP:普段通りの食生活を維持するように指示
HP:体重1kg当たり3g(3g/kg/日)以上のタンパク質を食事あるいはプロテインパウダーで摂取するよう指示(規定量のタンパク質が摂取できるようにホエイあるいはビーフプロテインパウダーを提供)

トレーニングの詳細は下記のとおり
頻度:8回/週
内容:スプリットルーティンで最大筋力と除脂肪量の増加を目的としたプログラム

介入期間前後に下記項目を測定
・形態・身体組成
→身長、体重、除脂肪量・脂肪量・体脂肪率(Bod Podを用いて空気置換法)

・パフォーマンス
→垂直跳び、立ち幅跳び、バックスクワット(最大挙上重量)、ベンチプレス(最大挙上重量)、プルアップ(最大反復回数)

・血液プロフィール
→血糖値、尿素窒素、クレアチニン、ナトリウム、カリウム、クロールなど

結果
※数値は平均値

・トレーニング経験年数はHPで長かった(NP:2.4年、HP:4.9年)

・介入期間前の形態・身体組成、総エネルギー摂取量・三大栄養素の摂取量、パフォーマンス、血液プロフィールに群間差なし

・NPは介入期間前に比べ介入期間後でタンパク質摂取量が増加したが(1.8g/kg→2.3g/kg)、総エネルギー摂取量(2016kcal/日→2119kcal/日)は同等だった
・HPは介入期間前に比べ介入期間後で総エネルギー摂取量(2240kcal/日→2614kcal/日)・タンパク質摂取量(2.1g/kg→3.4g/kg)が増加した
・介入期間後のPFC比はNPが32:31:37、HPが39:27:34

・NPは体重(74.7kg→76.0kg)・除脂肪量(59.6→61.1kg)が増加し、脂肪量(15.1kg→14.8kg)、体脂肪率(20.2%→19.6%)は低下した
・HPは除脂肪量(61.4kg→62.9kg)が増加し、脂肪量(13.5kg→11.9kg)・体脂肪率(18.3%→15.9%)は低下した。体重(75.8kg→75.7kg)は同等だった
・体重・脂肪量・体脂肪率の変化は群間差があった(HPで脂肪量、体脂肪率の減少が顕著)

・スクワット、ベンチプレス、垂直跳び、プルアップは両群ともに増加した

・血液プロフィールは介入期間前後で両群ともに同等だった

解説

この論文の高タンパク質摂取群(HP)は日々の高タンパク質食(3.4g/kg/日)の摂取と筋トレをハードに実施することで、体重の増減なく身体組成の改善に成功しました。

総エネルギー摂取量はNP(ただし、介入期間後のタンパク質摂取量が2.3g/kg/日と国際スポーツ栄養学会の推奨量である1.4-2.0g/kg日を超えていた)に比べてHPで多かったにも関わらず、HPは体重の変化なく、体脂肪が顕著に減少した結果は注目に値します。
また、一般にトレーニング経験を積むと身体組成を大幅に改善することが難しいと認識されていますが、この論文ではHPのトレーニング経験年数が多く、介入期間前の体脂肪率が低めでした(ただし有意差なし)。

HPでリコンポジションが起きた原因について論文の著者らは、高タンパク質の摂取による食事誘発性熱産生の増加、身体活動量・非運動性熱産生の差などが影響した可能性を指摘しています。
ただし、この論文の測定項目からではそれらの考察は推察の域を脱しません。
いずれにせよ、体重の増減を決める第一の要因は摂取カロリーと消費カロリーの差分であるエネルギーバランスと広く認識されていますが、時にエネルギーバランスだけで説明できないことがありそうです。

昔からタンパク質の過剰摂取は腎機能障害を誘発する可能性が指摘されていますが、血液プロフィールの結果をみる限り、そういった傾向は認められませんでした。
実際、近年では健常成人であれば、タンパク質が豊富な食事をとっても腎機能に影響しないというエビデンスも集まっています。
したがって、特別な疾患を有していない場合、高タンパク質食による腎機能への影響を過度に考慮する必要はないのもしれません。

まとめ

体重1kg当たり3g以上のタンパク質摂取とハードな筋トレによって身体組成のリコンポジションを引き起こせるかもしれない