定期的にスポーツに励む人はCOVID-19感染後の臨床転帰が良い傾向にある

2021年2月17日

はじめに

COVID-19感染が最初に確認されてから既に1年以上が経過しましたが、感染拡大が世界的にも歯止めがかかりません。
COVID-19の重症化のリスク因子としては、性別(男性)、年齢(高齢者)、喫煙習慣(喫煙者)、身体組成(肥満)がよく報道されています。
また、中国で行われた調査では、睡眠状態が悪いことや睡眠時間の短縮が重症化リスクと関係していました(リンク)。
今回はまた新しい観点からCOVID-19の重症化の要因についてみていきます。

一般に習慣的な運動習慣は免疫システムに好影響を与えます
また、運動習慣がある者は身体組成・血液プロフィール・睡眠状態といった健康度が高い場合が多いため、COVID-19の重症化リスクが低くなる可能性が考えられます

そこで今回は、イランで行われた調査をもとに、定期的なスポーツ参加者と非参加者のCOVID-19重症度を比較した論文を紹介します。

論文概要

出典
Halabchi, F., Mazaheri, R., Sabeti, K., Yunesian, M., Alizadeh, Z., Ahmadinejad, Z., Aghili, S. M., & Tavakol, Z. (2020). Regular Sports Participation as a Potential Predictor of Better Clinical Outcome in Adult Patients With COVID-19: A Large Cross-Sectional Study. Journal of physical activity & health, 1–5. Advance online publication. https://doi.org/10.1123/jpah.2020-0392

方法
調査期間:2020年2月20日―4月

調査対象:COVID-19の兆候と症状を示しイマームホメイニー病院の呼吸器救急科を訪れた患者

選択基準:年齢が20歳以上65歳以下、イラン国籍、COVID-19の疑いや診断あり、テヘラン州在住

臨床転帰(重症度)の定義は下記のとおり
外来管理:一般病棟あるいはICUへの入院の必要なし
一般病棟入院:急性呼吸器疾患に加え、呼吸数の大幅な増加・低酸素血症・CTスキャンの異常所見・医師の臨床的判断のうち、1つ以上の兆候あり
集中治療室(ICU)入院:難治性の低酸素血症、意識低下、血行動態の不安定、高炭酸ガス結晶と呼吸疲労

定期的なスポーツ参加者の定義:
テヘラン州スポーツ医学保険システムに加入している者を定期的なスポーツ参加者(組織化されたアスリート)とした
テヘランの全人口のうち、3.6%(495,380人)がこの保険システムの対象であった
イランでは、スポーツ大会に定期的に参加しているスポーツクラブ・ジムの会員は、この保険システムの対象となる
また、イランのスポーツ省の規定では、定期的に運動を実施している全スポーツ競技選手がこの保険システムに加入している必要がある

定期的なスポーツ参加者と他の患者との臨床転帰の結果を交絡因子(年齢・性別)を踏まえた上で比較

結果
・当該病院の呼吸器救急科を訪れ、COVID-19の疑いあるいは診断を受けた6434人のうち、4694人が研究の選択基準を満たした
・4694人のうち、249人がポーツ医学保険システム加入者(定期的なスポーツ参加者)
・中年期(45歳以上)の患者は、成人期初期(45歳未満)の患者に比べて3.57倍入院する可能性が高かった
・定期的なスポーツ活動参加者は、非アスリートよりも入院する可能性が1.49倍低かった(入院確率が33%低かった)
・定期的なスポーツ活動参加者はICU入院・死亡の割合が他の患者よりも低い傾向にあった(0.8%対3.1%、ただし有意差なし)

解説

この論文は、定期的なスポーツ参加者は、年齢・性別の交絡因子に関係なく、COVID-19感染後に重症となる確率が低かったことを示しています

ただし、他の多くの論文と同様にこの研究デザインからでは因果関係は言及できません。
また論文の著者らも考察で述べていましたが、この調査には下記に示したような研究上の限界があります。
・感染拡大初期には全ての患者に対してPCR検査などの客観的な診断が出来る医療体制が整っていなかった
・年齢・性別以外の交絡因子(肥満、糖尿病など)については調査していない
・スポーツ医学保険システムに介入していない者の中にも定期的に運動をしている者(自宅や屋外で運動をする人)が含まれていた

いずれにせよ、ここ最近の報道にもあるように、強靭な体力を持つスポーツ選手であってもCOVID-19に感染するケースは多々報告されています。
特に、練習や試合の身体負荷が高いスポーツや減量を伴うスポーツ、多くの人と接触する集団スポーツで感染者が多く出ているようです。
したがって、定期的なスポーツ参加者であっても適切な感染予防対策は大事には違いありません。
その上で、平均的な傾向をみてみると、やはり定期的なスポーツ活動参加者は、重症化するリスクは低いのかもしれません。
その原因としては、体力が高いことや睡眠をはじめとする生活習慣が整っていることなどが考えられますが、現時点では不明です。

まとめ

アスリートはCOVID-19感染後に重症化する可能性が低いようである