高齢者のコンカレントトレーニング(筋トレ+有酸素)は、食事からの十分なタンパク質摂取で効果が高まる

はじめに

当サイトではこれまでに、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)と有酸素性トレーニングを同時に行うコンカレントトレーニングが健康増進のために効果的なことを解説してきました。
特に筋肉量の低下・体脂肪の増加が起きやすい高齢者においては、コンカレントトレーニングは、健康寿命の延伸のためにも有効な手段です。

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たとえ同一のトレーニングを実施した場合でも、タンパク質摂取量が不十分の場合、トレーニング効果が損なわれると言われています。
筋タンパク合成機能が低下しがちな高齢者においては、タンパク質の摂取量が不足するとトレーニングによる筋肉量増加効果が軽減しやすいことも考えられます。

今回は高齢者を対象として、コンカレントトレーニングに食事からのタンパク質摂取量を高める栄養戦略を並行して実施した場合、トレーニング効果が高まるのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Timmons, J. F., Hone, M., Cogan, K. E., Duffy, O., & Egan, B. (2021). Increased leg strength after concurrent aerobic and resistance exercise training in older adults is augmented by a whole food-based high protein diet intervention. Frontiers in Sports and Active Living, 3, 52.

 

方法
65歳以上の男女63名を下記の3群にランダムに割り当て
・栄養介入群(NUTR)
・トレーニング介入群(EX)
・栄養介入+トレーニング介入群(NUTR+EX)
実験期間中の途中離脱によって、最終的な分析対象者は56名

介入期間は12週間
トレーニング介入の内容は下記のとおり
頻度:3回/週
時間:~40分/回(W-up、メイントレーニング、C-down)
メイントレーニングの内容:
3×4分のインターバル形式有酸素性トレーニング(80%年齢予測の最高心拍数)
6種目(レッグプレス、シーテッドロー、チェストプレス、ラットプルダウン、レッグエクステンション、トライセップスディップス)
×2サイクルのサーキット形式レジスタンストレーニング

栄養介入の内容は下記のとおり
毎回の食事で高タンパク質(約25-35g、約0.4g/kg)と約3gのロイシンの摂取を目標
介入開始時に説明会でNUTRおよびNUTR+EXの対象者に対して詳細を説明。毎日の朝・昼・夕食時にタンパク質が豊富な食事を摂取するように指示。NUTR+EXに対しては、1食はトレーニングセッション後60分以内に摂取するよう指示。また、毎回の食事で指定されたタンパク質量を一度に摂取するように求め、細かく分けて摂取しないように指示
食事介入のコンプライアンス(順守状況)は毎回の食事ごとチェックリストを用いて確認
EXに対しては普段通りの食習慣を維持するように指示

介入期間前後に下記項目を測定
形態・身体組成:身長、体重、体脂肪量・除脂肪量・四肢の骨格筋量(二重X線吸収法)
身体パフォーマンス:歩行スピード、Sit-to-standテスト(5回)
最大筋力:レッグプレス1RM、チェストプレス1RM、握力

介入期間前、介入期間中(6週間)、介入期間後に3日間の栄養調査を実施

結果
※数値は平均値
トレーニング実施率:NUTR+EXで86.3%、EXで88.7%

栄養調査:
EXは変化なし
NUTRとNUTR+EXはタンパク質の摂取量が増加
(NUTR:73.4g→119.9g→113.1g、NUTRLEX:65.8g→117.8g→117.1g)

形態・身体組成:
体重はNUTRで増加(+0.93kg)
体脂肪量はNUTRで増加傾向(+0.56kg)
除脂肪体重と四肢の骨格筋量はNUTR+EXのみ増加(ただし時間×交互作用なし)

最大筋力:
レッグプレス1RMの増加量は、NUTR(+11.1kg)・EX(+12.3kg)に比べてNUTR+EX(+29.6kg)で顕著
チェストプレス1RMの増加は、NUTR(+2.9kg)に比べてNUTR+EX(+6.3kg)で顕著。NUTR+EXとEX(+6.3kg)の増加量に差なし
握力は全群増加(群×時間の交互作用なし)

身体パフォーマンス:
歩行スピードとSit-to-standテストの変化に群×時間の交互作用なし(全ての群で増加あるいは増加傾向)

解説

トレーニングによる身体組成・運動機能の改善にタンパク質摂取が追加的な効果をもたらすかを検証した多くの先行研究では、一般的に「プロテイン」と呼ばれる粉末サプリメントをもとに食事介入を行っています。
一方、今回紹介した論文では、食品ベースの介入によってタンパク質摂取量を高めていることに新規性があります。
得られた結果は、食事からのタンパク質摂取を高めることでコンカレントトレーニングによるトレーニング効果(身体組成・最大筋力)が高まることを示唆しています。

この論文は、サプリメントと食品ベースによるタンパク質摂取の効果を直接比較しているわけではないため、プロテインサプリメントに比べて食品ベースのタンパク質が効果的であるのかについては言及できません。
しかし、最近の研究によると、朝・昼・夕食に均等に十分なタンパク質を摂取することで、筋タンパクの合成や筋肉量増加を促進することが示唆されています。
また、サプリメントの言葉の由来(「補う」「補足」)を踏まえると、まずは毎食の食事で25~30g程度のタンパク質を摂取することを優先すべきです。

この論文では、栄養介入のみの群(NUTR)でも最大筋力や身体パフォーマンスの改善が認められました。
測定・テストへの「慣れ」の影響も考えられますが、タンパク質摂取量が増えた、すなわち栄養状態が改善したことによる可能性も考えられます。
ただし、NUTRでは介入期間前に比べて6週間後、12週間後のタンパク質摂取量が増加(結果としてエネルギー摂取量も増加)したこともあり、体重が増加し体脂肪量も増加傾向でした。
したがって、対象者のBMIや体脂肪率によっては必ずしも健康的になったとは言えず、身体的健康度を高めるためには、栄養介入に加えてトレーニングによる刺激も必要に違いありません。

まとめ

高齢者は食事から十分なタンパク質を摂取することで、コンカレントトレーニングによる効果を高められる