アスリートが良質な睡眠を確保するために求められる食生活~その2~

はじめに

以前、オーストラリアンフットボール(1チーム18人の2チーム間で行われる球技スポーツ)の男性エリート選手を対象として、食生活と睡眠との関係を検証した論文を紹介しました。

アスリートを対象とした食生活と睡眠との関係はトレーニング量、性別、競技種目、競技レベル、仕事・学業の状況など、ありとあらゆる要因による影響を受けます。
そのため、一つの論文で得られたエビデンスだけでスポーツ現場に活かすことは難しく、積み重なるエビデンスをその都度読み解いていく姿勢が大切です。

今回は女性エリートオーストラリアンフットボール選手を対象として、食生活と睡眠との関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Condo, D., Lastella, M., Aisbett, B., Stevens, A., & Roberts, S. (2022). Sleep duration and quality are associated with nutrient intake in elite female athletes. Journal of science and medicine in sport, 25(4), 345–350. https://doi.org/10.1016/j.jsams.2021.11.045

方法
32名の女性エリートオーストラリアンフットボール選手を対象
モニタリング期間はプレシーズンの10日間

食生活の調査方法は、スマートフォンを用いて実施
得られたデータをもとに専用のソフトウェアを用いて栄養分析を実施
評価項目は下記のとおり
エネルギー摂取量
マクロ栄養素:タンパク質(トリプトファンを含む)、脂質(飽和脂肪を含む)、糖質(砂糖を含む)
マイクロ栄養素:カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE

睡眠データは、手首に装着する活動計と睡眠日誌によって評価
評価項目は下記のとおり
睡眠時間
睡眠効率(全就床時間に占める睡眠時間の割合)
睡眠潜時(就床開始時間から睡眠開始までの時間)
中途覚醒時間(睡眠中に目覚めた時間の合計)

全推定モデルの共変量は睡眠への潜在的影響を考慮した選択
具体的な共変量はトレーニング負荷、前日の睡眠時間、前日の中途覚醒時間、1日のアルコール摂取量、1日のカフェイン摂取量、年齢、クロノタイプ
エネルギー摂取量や特定のマクロ栄養素が予測変数の場合、全てのマクロ栄養素の摂取量も共変量に含まれた
マイクロ栄養素が予測変数の場合、そのマイクロ栄養素の主原料と考えられるマクロ栄養素(例:ビタミンEの場合は脂肪、ビタミンB12の場合はタンパク質)も共変量に含まれた
絶対値で評価された場合には体重も共変量に含まれた

結果
・1日を通したエネルギー摂取量は9347kj(約2230kcal)、糖質摂取量は222g(3.3g/kg)、タンパク質摂取量は124g(1.8g)、脂質摂取量は90g(1.4g)
・睡眠時間は7.1時間、睡眠効率は84%、入眠潜時は17分、中途覚醒時間は48分
※平均値

・エネルギー摂取量と睡眠データとの間に関連はなかった
・糖質摂取量が1g(1g/kg)多いごとに、中途覚醒時間は0.05分(3.6分)増加
・糖質摂取量が1g(1g/kg)多いごとに、睡眠効率は0.01%(0.6%)低下

・飽和脂肪が1g(1g/kg)多いごとに、入眠潜時は0.27分(17分)低下

・鉄が1mg多いごとに、睡眠時間は0.55分増加
・鉄が1mg多いごとに、睡眠効率は0.05%増加
・ナトリウムが1mg多いごとに、睡眠時間は0.012分低下
・ビタミンB12が1μg多いごとに、中途覚醒時間は1.7分低下
・ビタミンB12が1μg多いごとに、睡眠効率は0.4%増加
・亜鉛が1mg多いごとに、睡眠効率は0.23%増加
・ビタミンEが1mg多いごとに、睡眠効率は0.08%低下
・カルシウムは1mg多いごとに、入眠潜時は0.005分低下
・マグネシウムが1mg多いごとに、入眠潜時は0.02分低下

解説

この論文は、女性球技系エリートアスリートを対象とした結果、糖質摂取量が高い人は睡眠の質が低く(中途覚醒時間の増加、睡眠効率の低下)、飽和脂肪摂取量が高い人は睡眠の質が高かった(入眠潜時の低下)ことを報告しています。
また、マイクロ栄養素では、鉄、ビタミンB12、亜鉛、カルシウム、マグネシウムは睡眠にポジティブな影響を与えていた一方で、ナトリウム、ビタミンEはマイナスの影響を与えていました。

この論文の結果は、同じ競技を対象とした男性エリートアスリートを対象とした結果と必ずしも一致していません。
また、アスリート以外の集団を対象としたいくつかの研究と比べても不一致な結果もあります。
やはり、食生活と睡眠との関係は、様々な要因によって結果が異なるようです。

意外な結果だった飽和脂肪と入眠潜時との関係についてです。
論文の著者らは、高脂肪食をとると、脂肪の消化を促進するコレスチシストキニンというホルモン分泌が促されますが、そのホルモンが主観的な眠気と正の相関があるというエビデンスを紹介していました。

アスリートが睡眠を最適化するには、こういったエビデンスを参考にしつつも、個別に傾向を探りながらパーソナライズしていく必要があります。

まとめ

女性球技系エリートアスリートの睡眠はマクロ栄養素・マイクロ栄養素と関連する