上り坂、平地、下り坂のランニングエコノミーは相関するのか?

はじめに

ランニングエコノミーは、ネルギーをどれだけ経済的に使えているのかを示し、エネルギーの産生能力を表す最大酸素摂取量とともに、中長距離走のパフォーマンスを決定し得る指標です。
ランニングエコノミーは、一定速度走行時の酸素摂取量やエネルギー消費量、あるいは一定距離走行時に必要な酸素コストやエネルギーコストによって評価します。

多くの研究では、傾斜が0%あるいは1-2%に設定された平地条件でのトレッドミル走行時の呼気ガスを測定することでランニングエコノミーを評価しています。

一方、近年では起伏の豊かなトレイルランニングレースも盛んに開催されています。
したがって、平地でランニングエコノミーが優れるランナーは、上り坂・下り坂でも同様にランニングエコノミーが優れるのかは関心が高いです。

今回は異なる傾斜・速度でのエネルギーコストと相互関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Lemire, M., Falbriard, M., Aminian, K., Millet, G. P., & Meyer, F. (2021). Level, uphill and downhill running economy values are correlated except on steep slopes. Frontiers in Physiology, 12, 959.

方法
29名(男性19名、女性10名)の健常者を対象
対象者の体力や普段のランニングトレーニングの頻度には幅があった

実験デザインは下記のとおり
セッション1:傾斜0%での漸増負荷試験、膝関節伸展最大筋力の測定
セッション2-4:複数の傾斜(-20%、-10%、-5%、0%、+5%、+10%、+15%、+20%)と速度(8km/h、10km/h、12km/h、14km/h)における4分間のトレッドミル走行を各7-8回実施(ただし、一部の傾斜・速度条件は運動強度の高さ等を理由に未実施)

測定項目は下記のとおり
ランニング中のバイオメカニクスデータ:ステップ長、ステップ頻度、接地時間、滞空時間、最大垂直床反力、接地中の重心の垂直変位
・ランニング中の生理学・心理学指標:エネルギーコスト、換気量、呼吸回数、心拍数、血中乳酸濃度、主観的運動強度
・膝関節伸展等尺性最大筋力

結果
・全速度を踏まえて分析したところ、+20%との比較を除き、上り坂、平地、下り坂のエネルギーコストは有意な相関関係があった
・速度毎にみると、いくつかの組み合わせを除いて傾斜間で有意な相関関係があった
(有意な相関関係がなかった組み合わせ:8km/h@20%と8km/h@0%、10km/h@-20%と10km@0%、12km/h@+10%と12km/h@0%、14km/h@-20%と14km@0%)
・0%、-5%、-10%のエネルギーコストと膝関節伸展等尺性最大筋力との間には有意な相関関係があった
→ランニングエコノミーが優れるランナーほど、筋力が高い傾向
・上り坂(+5%、+10%、+15%、+20%)のエネルギーコストと膝関節伸展等尺性最大筋力との間には有意な相関関係がなかった
・全速度を踏まえて分析したところ、エネルギーコストと接地時間、滞空時間との間に有意な相関関係がなかった

解説

この論文の主な知見は、最も急な登り坂(+20%)を除き、傾斜間でのランニングエコノミーに相互関係があったことです。
この結果は、多くの傾斜においてエコノミーに優れるランナーは共通していたことを意味しています。
論文の著者らは、急な登り坂でのランニングエコノミーに特異的な傾向があった理由について、「+20%の条件では弾性エネルギーの貯蔵・再利用やバウンディングといった通常のランニング時で活用されるメカニズムが消失し、身体を移動するための仕事のほとんど短縮性収縮によって行われることが関係していた可能性がある」と述べています。

また、平地ならびに下り坂(ただし最も急な-20%を除く)のランニングエコノミーは膝関節伸展等尺性最大筋力が高いランナーほど優れる傾向も示されました。
この結果は、平地および下り坂のランニングエコノミーを高めるためには、膝関節伸展最大筋力を強化することが重要な可能性を示唆しています。

先行研究によると、-5%、0%、+7.5%のランニングエコノミーは互いに強く相関することが示されています(相関係数:0.830-0.909)。
(引用:Breiner, T. J., Ortiz, A., & Kram, R. (2019). Level, uphill and downhill running economy values are strongly inter-correlated. European journal of applied physiology, 119(1), 257–264. https://doi.org/10.1007/s00421-018-4021-x)

先行研究と今回紹介した論文を踏まえると、極端な傾斜を除くと平地、登り坂、下り坂のランニングエコノミーは相互に相関するに違いなさそうです。

まとめ

極端な登り坂を除き、上り坂、平地、下り坂のランニングエコノミーは相互に相関する