5回にわたる高強度ランニングトレーニングの回復に水風呂(CWI)が及ぼす影響

はじめに

以前、競技力の高い競泳選手たちを対象として、日々のトレーニング後の10分間の水風呂(CWI)が自律神経系や主観的回復度(特に睡眠の質)からみたリカバリーを促進することを示唆した論文を紹介しました。

また、男性持久系サイクリストたちを対象とした別の論文をもとに、トレーニング後の5分間の水風呂は3日間にわたるトレーニング負荷の維持に貢献するものの、翌日の自律神経系のコンディションに効果を与えるわけではないことを紹介しました。

今回は、アスリートではなく、レクリエーショナル層を対象として、トレッドミルランニングで行う高強度インターバルセッション後のCWIが心拍変動(HRV)、筋損傷、神経筋パフォーマンスなどに与える影響を調べた論文を紹介します。

論文概要

出典

Malta, E. S., Lopes, V. H. F., Esco, M. R., & Zagatto, A. M. (2023). Repeated cold-water immersion improves autonomic cardiac modulation following five sessions of high-intensity interval exercise. European journal of applied physiology, 123(9), 1939–1948. https://doi.org/10.1007/s00421-023-05205-4

方法
中程度に活動的な男性21名を対象(平均年齢:25歳)
対象者をランダムにCWI群とコントロール群に割り当て

5回の高強度セッションの前に慣れ施行、漸増負荷試験、血液マーカー、心拍変動(HRV)、垂直跳び(CMJ)のベースラインの測定・テストを実施

■高強度インターバルセッション
6-7本(最初の3回は6本、最後の2回は7本)×2分@95%vVO2max-2分@パッシブ

3回目と4回目のセッション間は72時間、それ以外のセッション間は48時間あけて実施
各セッションの前にCMJとHRVの測定を実施
5回目のセッションの48時間後に血液サンプル、CMJ、HRVの測定を実施

■CWIのプロトコル
各セクションの直後に実施
時間:11分
水温:11度
姿勢:座位(股関節90度屈曲位、下肢完全伸展位)
深さ:腰(水深:約25cm)

コントロール群はパッシブリカバリー(室温平均20.3度の環境で11分座位)

結果
■HRV
ベースライン測定に対するLn RMSSDの変化率を比較すると、最後の測定(5回目の高強度セッションの48時間後)はCWI群で有意に高い
また、群の主効果もあり、CWI群で有意に高い

■筋損傷(血液マーカー)
ベースライン、最後の測定ともにCKとLDHに群間差なし

■CMJ
ジャンプパフォーマンス、伸張性ピークフォース、短縮性ピークフォース、ピークパワーは同等で、有意な経時変化もなし

■セッション中の負荷(RPEおよび心拍数)
群間差なし

解説

この論文は、5回にわたる高強度ランニングインターバルセッションの直後にCWIを実施することで、トレーニング期間を通したHRVを高く保てることを示しています。
一方で、CMJ、筋損傷の血液マーカー、セッション中の心拍数、主観的運動強度(RPE)はパッシブリカバリーで過ごしたグループとの間で有意差を認めませんでした。

論文の著者らは、HRVへの影響について、CWIによって促進される副交感神経の再活性化が関連している可能性があると指摘していました。
具体的には、冷水は温度受容体からの求心性フィードバックを刺激し、血管収縮と末梢から中心領域への血流の再分配を引き起こし、心拍出量を増加させるという仮説が立てられていることや、心肺や動脈の圧反射を活性化することで、交感神経活動を阻害し、副交感神経の再活性化を増加させるといったメカニズムです。

また、HRVの結果をよくみると、コントロール群でも減少していませんでした。
この程度の高強度セッションでは、連続的に行ってもそもそも自律神経コンディションに大きな影響を与えなかったと言えます。
したがって、CWIは高強度セッションによる自律神経コンディションへのダメージを軽減したというよりは、トレーニングによる副交感神経の再活性化を促進したという解釈も出来そうです。

これまでの紹介した研究も踏まえると、1週間程度繰り返されるトレーニング後のCWIが自律神経コンディションに与える影響については、一言でまとめることは困難な模様です。

まとめ

高強度ランニング後にCWIを繰り返し実施すると、自律神経系には影響を及ぼすが、筋損傷マーカー、神経筋パフォーマンス、トレーニング中の心拍数には影響を及ぼさない