職場の昼休み運動プログラムの効果:サーキットトレーニングvs早歩き

2021年9月16日

はじめに

十分な身体活動量の確保は、肥満防止や心血管疾患のリスクを下げるために重要なことは広く認識されている一方で、推奨されている身体活動量を確保できている人は多くはいません
その理由の一つして挙げられるのは時間の欠如です。
特に働き盛りの現役世代では、平日は8時間程度仕事に従事している上、移動や運動の機会の少ないオフィスワークが主な業務の人も多くいます。

このような背景を踏まえ、今日では従業員の健康を高めるための取り組みとして、職場内での運動プログラムの有効性についても検証されています。

今回は、オフィスワーカーを対象に3ヶ月にわたり運動プログラム(サーキットトレーニングあるいは早歩き)を実施した際の効果を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Saavedra, J. M., Kristjánsdóttir, H., Gunnarsson, S. B., & García-Hermoso, A. (2021). EFFECTS OF 2 PHYSICAL EXERCISE PROGRAMS (CIRCUIT TRAINING AND BRISK WALK) CARRIED OUT DURING WORKING HOURS ON MULTIDIMENSIONAL COMPONENTS OF WORKERS’HEALTH: A PILOT STUDY. International journal of occupational medicine and environmental health, 34(1), 39-51.

方法
47名のオフィスワーカー(平均年齢45歳、うち27%が男性)を対象
対象者を下記の3群に分類
・サーキットトレーニング群18名: Circuit training(CT)
・早歩き群18名:Brisk walking(BW)
・コントロール群11名:Control(C)
※運動プログラムに興味のある36名をランダムにCT・BWに割り当て、運動に興味のない人をコントロール群に割り当て

トレーニング内容は下記のとおり
期間:12週間
頻度:3回/週
時間:30分(昼休みに実施。ただし昼食が摂れる時間も確保された)
CTの内容:
ステーション数:10-16
運動―休息比:60秒―30秒あるいは60秒―20秒
種目:プッシュ系、プル系、膝関節主導、股関節主導、体幹、メディスンボールスロー、有酸素性種目の組み合わせ(レジスタンスバンド、フリーウエイト、ステッパーなどの道具を利用)
BWの内容:
1分間当たりの歩数が100回以上になるようなペースでの歩行

介入前後に下記の測定を実施
形態・身体組成:体重、BMI、ウエスト・ヒップ比、体脂肪率、骨格筋率
全身持久力:6分間歩行テスト
血液プロフィール:総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、トリグリセリド
血圧:収縮期血圧、拡張期血圧
メンタルヘルス:Depression Anxiety Stress Scales(DASS)を利用

結果
体重・BMI:群×時間の交互作用あり
→Cで増加

ウエスト・ヒップ比:時間の主効果あり
→CTで減少

体脂肪率:群×時間の交互作用あり
→CTで減少

骨格筋率:主効果・交互作用なし
→CTで増加

全身持久力:時間の主効果・群×時間の交互作用あり
→CT、BWで増加

総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール:主効果・交互作用なし

トリグリセリド:時間の主効果あり
→BWで減少

収縮期血圧・拡張期血圧:主効果・交互作用なし

DASS:うつ、不安、ストレス、合計の各種スコアに時間の主効果あり
→depressionはBWで減少

解説

論文のタイトルに「pilot study」(予備研究、社会実験)とあるように、実験デザイン(運動プログラムを実施した人たちは運動に興味のある人が対象)やサンプルサイズ(人数)などに問題があり、研究の質が高いとは言えない論文です。
また、多くの項目で交互作用が認められていないため、結果の解釈には注意を要します(交互作用が有意でない場合、群内での介入前後の統計処理の結果は大きな意味を持たないとする場合が多い)。

このような限界はあるものの、職場での運動プログラムの効果を検証した実践的価値の高い論文には違いありません。

運動中の客観的なデータがないため推測の域を脱しませんが、CTは器具を用いてウエイトトレーニングを実施していたため、筋肉に対する負荷が高く、またサーキット形式で実施したことによって心臓血管系に対する負荷も高かったと思われます
これらの要因がウエスト・ヒップ比、体脂肪率、骨格筋率への効果がCTで比較的優れていた原因だと考えられます。

また、6分間歩行テストについてはCT・BWの両群で改善が認められました。
したがって、このような対象者(中年のオフィスワーカー)の場合、サーキットトレーニングや早歩きでも全身持久力への効果が期待できます

まとめ

職場での昼休みの運動プログラム(サーキットトレーニング・早歩き)は身体組成や全身持久力に対する効果が期待できる