増量期にこまめに食べると筋肉量は効果的に増えるのか

2021年8月1日

はじめに

筋肉量を増やす基本原則は、筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)を定期的に行うことで筋合成スイッチをオンにすることに加え、体内のエネルギーバランスをプラス(摂取カロリー>消費カロリー)にすることです。
一方で、あまりに多くのカロリーを摂取した場合、筋肉量のみならず脂肪量が過度に増えてしまいます

男性アスリートを対象とした論文によると、エネルギーバランスが+1000kcal/日となるように食事介入を12週間行ったところ、体脂肪量が増えることなく体重が増加したことが報告されており、除脂肪体重(筋肉量)の増加に成功しています。
(引用:永澤貴昭, 村田浩子, 村岡慈歩, 夏井裕明, & 田口素子. (2013). 競技者の増量に適した食事方法の検討. 日本臨床スポーツ医学会誌= The journal of Japanese Society of Clinical Sports Medicine, 21(2), 422-430.)

増量期でエネルギーバランスを正にする場合、普段よりも食事量を増やす必要があります。
この際に朝昼夕の三食で全てのカロリーを摂取しようとすると、1食当たりの摂取量が多くなるため、人によっては心身の負担が大きくなります。
このような場合、1食の摂取量を減らしながら食事の頻度を高める(頻食)ことで、ストレスを減らしながらエネルギー摂取を行うことがあります。

今回は、増量期において、頻食をした場合の体組成への影響について検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Taguchi, M., Hara, A., Murata, H., Torii, S., & Sako, T. (2020). Increasing Meal Frequency in Isoenergetic Conditions Does Not Affect Body Composition Change and Appetite During Weight Gain in Japanese Athletes. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 1–6. Advance online publication. https://doi.org/10.1123/ijsnem.2020-0139

方法
ランダムクロスオーバーデザイン
大学の漕艇(ボート)チームに所属する男子学生10名(軽量級選手)を対象
対象者は下記の2つのトライアルに参加(各トライアルは8週間)
・Regular frequency(RF):1日3食
・High frequency(HF):1日6食

トライアルの実施順序はランダムに決定(二つのトライアル間に5週間のインターバル)

エネルギー摂取量:毎日体重1kg当たり20kcalの正のエネルギーバランスになるように個別に決定
エネルギー消費量:運動時は酸素摂取量と心拍数との関係をもとに個別に決定。日常生活時は加速度計で定量
測定・評価項目:毎食後に主観的な食欲を記録。トライアル前後に体重と身体組成(二重エネルギーX 線吸収測定法)を測定

結果
数値は全て平均値

【食事に関する指標】
エネルギー消費量:RF群が3849kcal/日、HF群が3746kcal/日(有意差なし)
エネルギー摂取量:RF群が5244kcal/日、HF群が5134kcal/日(有意差なし)
エネルギー摂取比率(タンパク質・脂質・炭水化物):RF群が14.1%:23.4%:62.4%、HF群が14.2%:23.3%:62.5%(有意差なし)
エネルギーバランス:RF群が1395kcal/日、HF群が1338kcal/日(有意差なし)
主観的な食欲:有意差なし

【身体組成】
体重:両群ともに2kg程度増加したが、群間での有意差なし
体組成:両群ともに体脂肪(約1kg)・除脂肪体重(約1kg)が増加(群間での有意差なし)

解説

この論文は、男性持久性アスリートを対象とした場合、摂取するエネルギーが同等であれば、食事頻度を増やしたとしても増量期の身体組成の変化には影響を及ぼさないという結果でした。

論文の著者らは、この結果に基づき、スポーツ現場での増量期では、体組成を定期的にモニタリングしながら、個人差や生活環境を踏まえた上で状況に応じて食事頻度を決めるのが望ましいと述べています。

1000kcal/日以上の正のエネルギーバランスで8週間過ごしたのに体重が約2kgしか増えていない結果が非常に興味深いです。
この点について論文の著者らは、対象者が週5回午前と午後に高強度トレーニング(おそらくは持久性トレーニング)を、また週に2回のレジスタンストレーニングを実施していたことや、タンパク質の摂取量が多かったために食事誘発性熱産生が高かったことが影響していた可能性を考察していました。

上記に加え、たとえ研究で使われる手法であっても、摂取・消費カロリーを正確に測定することは難しいため、測定誤差も影響している可能性があります。
また、摂取したエネルギーをどれだけ消化・吸収できていたのかにも個人差があると考えられます。

特に運動量が多いアスリートでは、「いくら食べても体重を維持するのが精一杯」といった事例は時に起こるようで、体重や除脂肪体重の変化は、エネルギーバランスの計算だけでは説明できないこともあると考えられます。

まとめ

運動量が多い人が増量期に食事頻度を高めても体組成への影響は大きくない