持久系アスリートは睡眠時間を増やすことでパフォーマンスアップが期待できる

はじめに

持久系アスリートにとって、良質な睡眠の確保は、日々のトレーニングを充実させるためにも、トレーニング効果を獲得するために大切です。

断眠(徹夜)までいかなくても、日々の睡眠時間が1~3時間程度、増えたり減ったりすることは誰でも起こりえます。

今回紹介する論文は、普段の睡眠時間に比べて、睡眠時間を30%増やすか減らすかした、持久系パフォーマンスが変わるのか数日にわたり検証しています。

論文概要

出典

Roberts, S., Teo, W. P., Aisbett, B., & Warmington, S. A. (2019). Extended Sleep Maintains Endurance Performance Better than Normal or Restricted Sleep. Medicine and science in sports and exercise, 51(12), 2516–2523. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000002071

方法
9名の男性持久系アスリート(7名:サイクリスト、2名:トライアスリート)を対象

■実験デザイン
対象者はカウンターバランスド・クロスオーバーデザインで下記3条件のトライアルに参加
・睡眠短縮(Sleep Restriction: SR)
・通常睡眠(Normal Sleep: NS)
・睡眠延長(Sleep Extension: SE)
条件間のウォッシュアウト期間は7日間以上

各トライアルは連続した7日間で構成(-2,-1,D1,D2,D3,D4,+1)
D1-D4の4日間、持久系パフォーマンステストを毎日実施
D1-D3の三晩の睡眠に介入(普段の睡眠よりSRは30%減少、SEは30%増加を意図)

■持久系パフォーマンステスト
事前に行われたサイクリングエルゴメーターでの漸増負荷試験の無酸素性閾値の強度(W)で1時間こぎ続けた仕事量に達するまでのタイムトライアル

■睡眠データ
手首に装着するタイプの活動量計を用いて計測
総睡眠時間、睡眠効率(総就床時間に対する睡眠時間のパーセンテージ)を評価
主観的な睡眠の質も定量

■心理テスト
持久系パフォーマンステストの前に実施
気分プロフィール検査(POMS)
サイコモータービジランステスト(集中力や覚醒度の評価)

結果
※数値は平均値

■D1-D3の睡眠状況
総睡眠時間
SR:4.7時間、4.8時間、4.9時間
NS:7.1時間、6.5時間、6.9時間
SE:8.6時間、8.3時間、8.2時間
NSと比べると、SRで短く、SEで長かった

睡眠効率
D2:SE(88%)がSR(91%)、NS(91%)に比べて低値
D3:SE(86%)がSR(90%)、NS(90%)に比べて低値

主観的な睡眠の質
D3:NSがSEより優れる

■持久系パフォーマンス
D3:SR(60.4分)がNS(58.8分)に比べて遅い
D4:SR(62.0分)、NS(58.7分)がSE(56.8分)に比べて遅い
SR条件での比較:D1に比べてD2、D4で遅い(D3で遅い傾向)

■サイコモータービジランステスト
平均反応タイム
D3・D4:SEがSR、NSに比べて早い
D4:NSがSRに比べて早い
SR条件での比較:D1に比べて、D2、D3、D4で遅い
NS条件での比較:D1に比べて、D2、D4で遅い
SE条件での比較:D1に比べて、D4で早い

■気分プロフィール検査
トータルムードディスターバンス
D3、D4:SRがNS、SEと比べて高値
SR条件での比較:D1に比べてD2、D3、D4で高値

解説

この論文は、徹夜といった過酷な睡眠制限でなくても、数日連続して睡眠時間が短縮すると、持久系パフォーマンスが低下することを示しています(D3)。
また、普段よりも意図的に数晩にわたり睡眠時間を増やすことで、持久系パフォーマンスが向上することも示しています(D4)。

一般成人を対象としたコホート研究によると、死亡リスク軽減のための最適な睡眠時間は7時間台となっています。

一方、この論文の睡眠延長群の睡眠時間は8時間台でした。
したがって、身体負荷の高いアスリートの場合には、一般人よりも必要な睡眠時間が長いのかもしれません。

睡眠効率は、睡眠延長群で低い結果が得られていました(D2、D3)。
これは、睡眠延長群では、ベッドにいた総時間に対して、実際に眠りについていた時間の比率が減っていたということです。
また、主観的な睡眠の質も通常睡眠群に比べると、睡眠延長群では悪い日がありました(D3)。
持久系アスリートの場合、第一に睡眠時間の確保が大切であり、睡眠時間が少ない状態では睡眠効率や睡眠の質が高くなっても、パフォーマンスに対して有益でないことを示唆しています。

持久系パフォーマンスに差が生まれるのであれば、持久系アスリートが睡眠を充実させることに取り組まない理由は見当たりません。

まとめ

持久系パフォーマンスの観点でみると睡眠時間は7時間では足りない