過度な疲労蓄積を避けながら暑熱馴化を促進する持久系トレーニング

はじめに

暑熱環境で優れた持久系パフォーマンスを発揮するには、徐々に身体を暑さに馴れさせる暑熱馴化(暑熱順応)が鍵となります。
暑熱馴化の手段としては、暑熱環境でのトレーニング、サウナ、入浴などがありますが、今回は暑熱環境でのトレーニングに着目します。

今回紹介する論文では、持久系アスリートを対象として、1週間にわたり強度の異なる暑熱環境トレーニングをした際の効果を比較検証しています。

論文概要

出典

Schmit, C., Duffield, R., Hausswirth, C., Brisswalter, J., & Le Meur, Y. (2018). Optimizing Heat Acclimation for Endurance Athletes: High- Versus Low-Intensity Training. International journal of sports physiology and performance, 13(6), 816–823. https://doi.org/10.1123/ijspp.2017-0007

方法
29名の男性トライアスリートを下記の3群にランダムに分類
コントロール群(C群)
高強度暑熱馴化群(HA-H群)
低強度暑熱馴化群(HA-L群)

実験は次の4期間で構成
フェーズ1:2週間の普段通りのトレーニング
フェーズ2:2週間のコントロールされたトレーニング
フェーズ3:1週間の暑熱馴化トレーニング
フェーズ4:1週間の暑熱馴化テーパリング(普段のトレーニングの50%の負荷)

HA-H群とHA-L群はフェーズ3とフェーズ4のトレーニングを暑熱環境(気温:30℃、湿度:50%)で実施
トレーニング変数は運動強度を除き全て同じ
フェーズ3のトレーニングは、HA-H群では時速19kmでの8×400mといったような高強度トレーニングを5日連続実施したのに対し、HA-L群では時速11kmでの90分間走といった低強度トレーニングを5日連続実施
フェーズ3はトレーニング開始から最初の60分、フェーズ4は同30分を暑熱環境で実施
C群は普段通りのトレーニングを非暑熱環境(気温:21℃、湿度:50%)で実施
フェーズ3とフェーズ4の午前6時から午後1時の気象条件は気温が6.5度、湿度が65.0%(平均値)

フェーズ1からフェーズに2にかけて最大パワーテスト、20kmタイムトライアル(20kmTT)の慣れテストを実施
フェーズ3の直前(Pre)、直後(Mid)、フェーズ4の直後(Post)に20kmTTを実施
20kmTTの実施環境は暑熱環境(気温35度、湿度35%)

結果
■20kmTTのパワー
C群:PreからMidにかけて一定、MidからPostにかけて増加
HA-L群:PreからMid、MidからPostと徐々に増加
HA-H群:PreからMidにかけて低下、MidからPostにかけて増加
PreとPostで比較すると、HA-H群とC群は変化なし、HA-L群は増加

HA-L群は体重や深部体温の減少といった暑熱順化に伴う生理学的適応が観察
HA-H群はMidで20kmTTの最高心拍数の低下、主観的疲労度の増加が観察

解説

この論文は、1週間の鍛錬期と1週間のテーパリング期において、暑熱環境でのトレーニングを低強度と高強度で行うかでトレーニング効果が異なるのかを検証しています。
得られた結果によると、高強度の暑熱馴化プログラムはたった1週間でもオーバーリーチングに陥り、その後のテーパリング期間後のパフォーマンスの向上も不十分でした。

実際の持久系アスリートのトレーニングは低から高の強度が混在することがほとんどのため、このような極端なアプローチで得られた結果をスポーツ現場に活かすのは難しいです。

また、この論文の対象者は、暑熱環境トレーニング以外の時間帯を涼しい環境で過ごしていました。
したがって、基本的にどこにいても日中は暑い日本の環境において、この結果がどこまで活かせるのかも未知数です。

個人的には、この論文から学べることは、「持久系アスリートはオーバーリーチングに陥るとその後のパフォーマンスの適応を妨げる」という他の研究結果をサポートする知見だと思います。
オーバーリーチングはときに、機能的オーバーリーチング(Functional overreaching)、非機能的オーバーリーチング(Nonfunctional overreaching)と分けられ、前者はポジティブな意味合いで使われることがありますが、先行研究を眺める限り、オーバーリーチングに機能的も非機能的もない気がします。

まとめ

暑熱環境での高強度トレーニングはオーバーリーチングに陥りやすい