高強度トレーニング直後の夕食は高GIな糖質を摂った方が睡眠に好影響

はじめに

これまでに、食生活と睡眠の質との関係に着目した論文を紹介しました。

今回はアスリートやスポーツ愛好家に参考となる研究をみていきます。

睡眠は、運動後の心身の回復に重要な役割を果たしています。
したがって食事によって睡眠の質を高められるのであれば、アスリートのコンディショニングに利益をもたらします
また一般的には好ましくないと言われているアプローチでも、運動という要因が加わることで違った振る舞いをする可能性もあります。

糖質の質に関する指標として、食後血糖値の上昇度を示すGlycemic Index(GI)があります。
GI値は低いほど血糖値の上昇が緩やかにすると評価します。
したがって、肥満者や糖尿病患者では、食生活の改善のためには低GI食品が勧められることが多いです。

しかし、アスリートにおいては運動によって減少した体内の糖質量をいち早く回復させるために、高GI食品は時に有効な手段となります。

今回は超高強度自転車運動直後に摂った夕食のGI値の違いが睡眠や翌日の運動パフォーマンスに及ぼす影響を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Vlahoyiannis, A., Aphamis, G., Andreou, E., Samoutis, G., Sakkas, G. K., & Giannaki, C. D. (2018). Effects of High vs. Low Glycemic Index of Post-Exercise Meals on Sleep and Exercise Performance: A Randomized, Double-Blind, Counterbalanced Polysomnographic Study. Nutrients, 10(11), 1795. https://doi.org/10.3390/nu10111795

方法
10名の運動習慣を有する健常男性を対象(平均年齢:23.2歳)
ダブルブラインドランダム化カウンターバランスクロスオーバーデザイン

形態・身体組成・全身持久力(VO2peak)・安静時代謝量の測定、タイムトライアルや睡眠計測の慣れといったプレテスト後にランダムに2試行(高GI食、低GI食)のトライアルを実施
トライアル間のウォッシュアウト期間は7日間

トライアルは下記のとおり
①スプリントインターバルトレーニング(SIT)の実施
10分@35%Wmax(W-up)→6×20秒@140Wmax-140秒@20%Wmax→10分@50%Wmax(C-down)

②食事介入
SITの3時間前の食事:
両群で同一の食事を摂取(200gの低脂肪ヨーグルト、バナナ1個)

SIT直後の食事(夕食):
異なるGI値の食事を摂取
→蒸し米あるいはジャスミン米と野菜の組み合わせ
→両群ともに体重1kgあたり約2gの糖質含有
→Glycemic load(GI/100×糖質g)は高GI食で約170、低GI食で約81

翌日の朝食:運動テスト2時間前に同一の食事を摂取(483kcal、糖質:102g、脂質:3.3g、タンパク質:17.9g)

※プレテスト後、実験期間中は全対象者がバランスのとれた食事を摂取
(エネルギー摂取量:2523kcal/日、タンパク質:1.5g/kg/日、糖質:5.5g/kg/日)

③睡眠測定
SIT後、対象者は自宅で睡眠をとった(入床時刻は条件間で統一)
ポータブル測定機器によって測定(睡眠ポリグラフ検査)

④運動パフォーマンス
SITの翌日の運動パフォーマンスを評価
測定項目は下記のとおり
・垂直跳び(CMJ)
・視覚反応時間(VRT)
・5kmのタイムトライアル(5kmTT)

結果
・SIT中の心拍数は群間差なし

・Total sleep time(全睡眠時間)(高GI食:426分、低GI食:364分)、Sleep efficiency(睡眠効率)(高GI食:89%、低GI食:81%)、Sleep onset latency(入眠潜時)(高GI食:6分、低GI食:24.6分)、Total wake time(全覚醒時間)(高GI食:47分、低GI食:80分)は高GI食で優れていた

・VRTは高GI食で短かった(8.9%)。CMI、5kmTTは群間差がなかった

・条件間の総睡眠時間の差とVRTの差との間には有意な負の相関関係(r = -0.657)

解説

この論文は、たとえ同じカロリー・糖質量だとしても、超高強度運動後の高GI食は、その日の全睡眠時間、睡眠効率、入眠潜時、全覚醒時間に好影響を与えることを明らかにしました。
また、高GI食を摂った場合、翌日の視覚反応時間が短縮し、その程度は睡眠時間の延長と関係することも示されました。

超高強度運動直後に高GIな夕食を摂ることで睡眠が改善したメカニズムは、この研究からは断定できません。
論文の著者らは、運動後の高GI食によってインスリン濃度の増加をもたらしたことが影響した可能性を指摘しています。
インスリンは、血漿中の大分子中世アミノ酸(Large Neutral Amino Acid Transporter : LNAA)に対するトリプトファンの比率(Trp:LNAA)を高める働きがあるとされています。

トリプトファンの脳移行は、Trp:LNAAに依存します。
脳に移行したトリプトファンはセロトニンを生成し、最終的にはメラトニンの分泌を起こすため、眠気を誘発します。
特にスプリント形式の運動では1回のトレーニングでもインスリン感受性が亢進することを踏まえると、「超高強度運動」「運動直後の高GI食」という相互作用によって、睡眠が改善したのかもしれません。

なお、一般的に糖質の摂りすぎは睡眠の質を低下させると言われています。
また、夕食から入床までの時間が短すぎる場合、消化吸収が不十分となり、睡眠が妨げられる可能性も考えられます。
したがって、今回の結果を「夕食の高GI食=睡眠に好影響」と理解することは拡大解釈に相当します。

まとめ

超高強度運動直後の高GI食は睡眠に好影響を与える