【温故知新シリーズ6】ヘビーなストレングストレーニングは持久系スポーツのラストスパートに効く

2023年8月16日

はじめに

10年以上前に発表された論文をあつかう温故知新シリーズ。
今回は、持久系アスリートがストレングストレーニングを実施すると、ラストスパートのパフォーマンスが高まる可能性に触れます。

持久系アスリートが持久系トレーニングに加えてストレングストレーニングを行うことで、その種目の経済性・効率性や最高走速度・最高出力が向上することは知られています。
一方、多くの研究は、5-15分程度の比較的短時間で能力を評価しており、競技に近い条件で検証した論文はあまりありません。

今回紹介する論文は、サイクリストに対する12週間の高重量ストレングストレーニングが長時間サイクリング後のラストスパートのパフォーマンスに及ぼす影響を検証しています。
2011年に発表されたこの論文は、Google Scholarによると100本以上引用されており、当該分野にインパクトを与えています。

論文概要

出典

Rønnestad, B. R., Hansen, E. A., & Raastad, T. (2011). Strength training improves 5-min all-out performance following 185 min of cycling. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 21(2), 250–259. https://doi.org/10.1111/j.1600-0838.2009.01035.x

方法
過去6か月ストレングストレーニングを実施していない23名のサイクリストを対象
うち3名が病気による途中離脱

対象者は自らの意志で実験群と対照群を選択

実験期間は12週間
実権期間の前後に測定
(実験開始時期は、前シーズンの競技終了から1か月以内)
実験群のみストレングストレーニングを実施
持久系トレーニングは、両群で同等の内容を実施

■ストレングストレーニング
頻度:2回/週

強度:
1-3週→10RM/1回目、6RM/2回目
4-6週→8RM/1回目、5RM/2回目
7-12週→6RM/1回目、4RM/2回目

種目:
ハーフスクワット(スミスマシン)、片脚レッグプレス、片脚ヒップフレクション、トゥーレイズ

セット数:3セット

収縮時間:2-3秒(伸張性収縮)/約1秒(短縮性収縮)

その他:持久系トレーニングを同日実施する場合、基本的にはストレングストレーニングを最初に実施

■測定
最大筋力:ハーフスクワット(スミスマシン)の最大挙上重量(1RM)

フィットネス:
最大酸素摂取量(VO2max)、最高出力(Wmax)
(サイクリングの漸増負荷試験で評価)

長時間・オールアウトサイクリング:
長時間サイクリング(185分、トレーニング期間前の漸増負荷試験の44%Wmaxの強度)を実施
長時間サイクリングの終了2分後から5分オールアウトサイクリングを実施
長時間サイクリング中、30分ごとに酸素摂取量、呼吸交換比、心拍数、ケーデンス、主観的運動強度(RPE)、血中乳酸濃度を測定
※長時間サイクリングはCadence-independent mode、オールアウトサイクリングはCadence-dependent mode)
※長時間サイクリング中は75g/Lの糖質が含まれた飲料を自由に摂取可

結果
※数値は平均値

体重:実験群で増加(1.2%)

VO2max:両群で増加(実験群:3%、対照群:6%)

最大筋力:実験群で増加(26%)

長時間サイクリング:
最後の1時間の心拍数と血中乳酸濃度は実験群で減少
最後の1時間のトレーニング期間前後の変化率は、酸素摂取量(実験群:-2.2%、対照群:1.9%)、心拍数(実験群:-6.5%、対照群:0.3%)、血中乳酸濃度(実験群:-14.0%、対照群:11.3%)、RPE(実験群:-8.2%、対照群:2.0%)で群間差あり

オールアウトサイクリング:
平均パワーは実験群で増加(7.2%)
平均パワーのトレーニング期間前後の変化率に群間差あり

解説

最大酸素摂取量が絶対値で5L前後、体重1kg当たりの相対値で65ml/kg/min前後と、フィットネスが高い集団を対象とした論文です。
結果は、持久系サイクリストを対象とした下半身の高重量ストレングストレーニングは、下肢の最大筋力を増加させるだけでなく、長時間サイクリングの終盤の生理学応答を改善させ、その後のラストスパートの出力を向上させる可能性を示しています。

自転車ロード競技は空気抵抗の影響を抑えるために、終盤までグループでレースが進み、最後にスパート合戦となることがあります。
スパートで勝ち切る力をスプリント能力と呼ぶことがありますが、スパート前の時点で身体に高い生理学負荷がかかっている場合、たとえ短時間の最大出力が高い選手でも十分な出力を出すことが困難です。
この論文の結果は、ストレングストレーニングを行うことで、余力をもって長時間運動をこなせるようになり、それが結果として最後のスプリント能力を高めることに繋がることを示唆しています。

トライアスリートを対象として、競技をシミュレートしたトライアル(オリンピックディスタンス相当、サイクリングとランニングの最後の1分のエコノミーを評価)でサイクリングとランニングのエコノミーが向上した論文も踏まえると、ある程度の重量を用いたストレングストレーニングは、数時間を要する持久系競技の生理学負荷を軽減する効果が期待できるのかもしれません。

同じ持久系スポーツでも、ランニングのようなストレッチ・ショートニング・サイクル局面がある種目で同様の効果が得られるのかは、これまでの知見からは断定できない印象です。

まとめ

ストレングストレーニングは長時間持久系競技のラストスパートの出力アップに繋がる可能性