持久系アスリートはオフシーズン(移行期)にどれ程トレーニングすべきなのか?

はじめに

アスリートのシーズンの分類方法には、いくつかのパターンがありますが、準備期(一般的準備期、特異的準備期)、試合期、移行期の三段階に分ける場合があります。

いわゆるオフシーズンは移行期に相当し、心身に蓄積した疲労を取り除くことが最大の目的となります。
したがって、準備期や試合期に比べると、移行期のトレーニング負荷(量×時間)は減少します。
一方、オフシーズンに休み過ぎたり、生活習慣が乱れ過ぎたりすると、フィットネスが著しく減少した状態で翌シーズンを迎えることになり、競技期で優れたパフォーマンスを発揮できない可能性があります。
つまり、オフシーズンでは心身の疲労を取り除きながらも、フィットネスの減少を最小限に留めることのできる程よいトレーニングが大切です。

今回紹介する論文は、エリートサイクリストを対象として、3週間のオフシーズンのトレーニング内容の違いがオフシーズン終了後のフィットネスやパフォーマンスに与える影響を検証しています。

論文概要

出典

Almquist, N. W., Løvlien, I., Byrkjedal, P. T., Spencer, M., Kristoffersen, M., Skovereng, K., Sandbakk, Ø., & Rønnestad, B. R. (2020). Effects of Including Sprints in One Weekly Low-Intensity Training Session During the Transition Period of Elite Cyclists. Frontiers in physiology, 11, 1000. https://doi.org/10.3389/fphys.2020.01000

方法
21名のエリートサイクリストを対象
実験期間中の途中離脱などによって最終的なデータ分析対象者は16名
対象者はランダムにスプリント(SPR:7名)、コントロール(CON:9名)、に割り当て

実験は最後の大会の3-5日後から始まった移行期(3週間)に実施
移行期前後にテストを実施

■移行期のトレーニング内容
両群ともに低強度トレーニングで構成(実施頻度に有意差なし)
トレーニング負荷は直前4週間に対して約60%減少
ただし、SPRは週1回(合計3回)、90分の低強度トレーニング(60%最大酸素摂取量)の中に3セット×3本×30秒最大スプリント(本間のリカバリー:4分、セット間のリカバリー:15分)を実施

■テスト内容
・筋力テスト
レッグプレスマシン利用
41kgから徐々に重量を上げながら実施し、最大速度、最大フォース、最大パワーを算出

・血中乳酸プロフィールテスト
最大下強度漸増負荷試験中の血中乳酸、酸素摂取量、心拍数、主観的運動強度を測定

・6秒オールアウトテスト
体重1kg当たり0.8Nmの抵抗を用いて、6秒全力スプリントを実施
ピークパワーを算出

・最大酸素摂取量(VO2max)テスト
最大漸増負荷試験によってVO2max、最大パワー(Wmax)を測定

・60分持続テスト(4本×30秒の最大スプリントあり)+20分オールアウトテスト
60分持続サイクリング(60%VO2amx)の36-50分に4本×30秒の最大スプリント(本間のリカバリー:4分)を実施
60分経過直後から20分オールアウトテストを実施
パワー、酸素摂取量、心拍数、主観的運動強度、血中乳酸濃度などを評価
Athlete Burnout Questionnaireでバーンアウト状態を評価

結果
■スプリントパフォーマンス
60分持続サイクリング中の30秒最大スプリントの発揮パワー
→SPRは増加、CONは低下

6秒オールアウトテストのピークパワー
→両群変化なし

■20分オールアウトテスト
発揮パワー
→SPRは維持、CONは低下

酸素摂取水準
→SPRは維持、CONは低下

■生理学指標
4mmol/Lのパワー
→両群減少

4mmol/Lの酸素摂取水準
→SPRは維持、CONは低下傾向

グロス効率
→両群維持

VO2max、Wmax
→両群維持

体重
→SPRは増加傾向、CONは増加

■筋力指標
最大フォース、最大パワー
→両群変化なし

最大速度
→SPRは維持、CONは増加

■バーンアウト状態
トータルスコア
→両群ともに変化なし

解説

この論文は持久系アスリートを対象として、3週間のオフシーズン(移行期)中の低強度トレーニング中に30秒スプリントを27回(9回/セッション×3週)実施することで、オフシーズン明けのフィットネス減少が軽減できることを示しています。

具体的には、60分間持続サイクリング後の20分オールアウトテストの発揮パワー・酸素摂取水準、血中乳酸濃度が4mmol/Lの酸素摂取水準を維持出来ていました。
また、60分持続サイクリング中に行われた30秒最大スプリントの発揮パワーは、オフシーズン前よりも改善が認められました。
一方、VO2max、エコノミー、酸素摂取水準の三要因の影響を受けるパフォーマンス指標である4mmol/Lの発揮パワーは、低下が認められたことから、このトレーニングではフィットネスの減少を完全に抑制できたわけではありませんでした。

オフシーズンにどの程度トレーニング負荷を落とすべきなのかは、それまでのトレーニング負荷、傷害の有無、翌シーズン以降の計画などによって答えが異なります。
したがって、誰にも共通する最適なオフシーズンのトレーニングというのは存在しません。
それを踏まえた上で、1) トレーニング負荷(量×強度)を大幅に減少させる、2) トレーニング負荷の大部分を低強度で構成する、3) 数十秒のスプリントを週1回ベースで実施する(数分間のロングインターバルに比べると精神的負荷が軽い場合が多い)というアプローチは、フィットネスの減少とバーンアウトを防ぐほどほどのトレーニングと言えるのかもしれません。

まとめ

持久系アスリートは、オフシーズン中の低強度トレーニングの中に週1回スプリントを行うことで、フィットネスの減少をある程度抑制できる