睡眠の過不足による死亡リスク上昇は有酸素と筋トレをすることで軽減できる

はじめに

前回の記事に引き続き、今回も死亡リスクに関する論文をあつかいます。

身体活動あるいは睡眠時間と死亡率との関係を検証したコホート研究の多くは、それぞれ有意な関係を報告しています。
つまり、身体活動が不十分、睡眠時間が過不足(特に多い場合で顕著)な場合に死亡リスクは上昇します。
しかし、身体活動と睡眠を同時に定量した上で死亡リスクとの関係を検証した研究はあまりありません。

今回紹介する論文は、身体活動と睡眠時間のガイドラインを満たすことと全死亡率との共同関連(Joint association)を検証しています。
また、この論文は身体活動を有酸素身体活動と筋力強化運動(筋トレ)という二つの側面で捉えていることも特徴です。

論文概要

出典

Duncan, M. J., Oftedal, S., Kline, C. E., Plotnikoff, R. C., & Holliday, E. G. (2022). Associations between aerobic and muscle-strengthening physical activity, sleep duration, and risk of all-cause mortality: A prospective cohort study of 282,473 U.S. adults. Journal of sport and health science, S2095-2546(22)00077-1. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/j.jshs.2022.07.003

方法
アメリカのNational Health Interview Survey(NHIS)に関するデータを利用
2004年から2014年の調査データを利用

アウトカムは全死亡率
フォローアップ期間は2015年末まで

有酸素(U.S. Physical Activity Guidelines)、筋トレ(U.S. Physical Activity Guidelines)、睡眠時間(National Sleep Foundation)についてガイドラインを満たしているかをアンケートによって調査
各基準は下記のとおり
■有酸素
余暇時間に週当たり150分以上の中強度、75分以上の高強度、あるいは150分以上の中強度・高強度を実施している
■筋トレ
余暇時間に週2回以上の筋トレを実施している

そして、これらの基準をもとに身体活動は4つのグループに分類
Active(有酸素、筋トレの二つを満たす)
AER(有酸素のみ満たす)
MSA(筋トレのみ満たす)
Inactive(いずれも満たさない)

■睡眠時間
下記の3つのグループに分類
Rec(18-64歳:7-9時間、64歳より上:7-8時間)
Short(18-64歳:6時間以下、64歳より上:6時間以下)
Long(18-64歳:10時間以上、64歳より上:9時間以上)

従って下記12グループに分類
Active-Rec、AER-Rec、MSA-Rec、Inactive-Rec、Active-Short、AER-Short、MSA-Short、Inactive-Short、Active-Long、AER-Long、MSA-Long、Inactive-Long

共変量として年齢、性別、教育、民族、仕事のステータス、BMI、アルコール摂取量、喫煙歴、主観的健康度を考慮

結果
調査参加者325,884人のうち1年以内に亡くなった者やデータの欠損があった者などを除いた282,473人を分析

平均フォローアップ期間は5.4年

分析対象者の内訳は下記のとおり
■身体活動
Active: 18%
AER: 27%
MSA: 2.6%
Inactive: 52%
■睡眠
Rec: 65%
Short: 30%
Short: 5%

Active-Recを基準とすると、Active-Short(ハザード比:1.08、95%信頼区間:0.92-1.26)を除いた全てのグループで死亡率は有意に高い

Active-Recを基準とすると、睡眠時間が同じであればAER、MSA、Inactiveの順に死亡率が高くなる傾向
例えばAER-Rec(同比:1.21、同区間:1.09-1.34)、MSA-Rec(同比:1.56、同区間:1.36-1.80)、Inactive-Rec(同比:1.68、同区間:1.53-1.84)

Active-Recを基準とすると、Inactive-Long(同比:2.20、同区間:1.99-2.44)、MSA-Long(同比:2.32、同区間:1.85-2.91)でハザード比が2を超えていた

身体活動レベルが同じであれば、睡眠時間がRecに比べると、Shortは死亡率の増加に関係しない

Activeであっても、睡眠時間がLongだと死亡率が高まる

解説

この論文は、アメリカ住民を対象として、身体活動および睡眠時間と全死亡率との共同関連を検証しています。
得られた結果は、身体活動と睡眠時間の両ガイドラインを満たしていた人達に比べると、身体活動は満たしていたが睡眠時間が短かった人達を除いた10のグループで全死亡率が高まっていました。
したがって、短眠であっても、身体活動的にアクティブであれば全死亡率からみた健康度はある程度確保できると言えます。

また、身体活動を踏まえても、短眠に比べ長眠の方が全死亡率に悪影響を与えるという結果は、睡眠時間と全死亡率との関係を検証した研究と似寄る見解です。

有酸素と筋トレどちらかを選ぶ場合には、この研究からは有酸素がオススメという見解になりそうです。

まとめ

睡眠時間が短くても身体活動レベルが高ければ死亡リスク上昇を抑えられるかもしれない