長距離走後の筋ダメージ軽減にはタンパク質より糖質の摂取が大事かもしれない

はじめに

近年、マラソン大会をはじめとする長距離走(ロードレース)後の筋ダメージ軽減を狙ったアプローチの有効性を検証する研究が実施されています。

当サイトでもこれまでに、フルマラソン大会の前・中・後に糖質とタンパク質を補給することで筋ダメージが軽減することを紹介しました。




ダメージを受けた筋肉の修復には筋タンパクバランスをポジティブ(合成>分解)に保つことが重要とされています。
そのため、筋ダメージ軽減を目的とした場合、タンパク質の摂取が重要視されています。
しかし、前述した論文を含めて、多くの研究ではタンパク質と糖質を同時に摂取しているため、その効果がタンパク質と糖質の同時摂取によるもの、あるいは糖質の摂取に起因する可能性もあります。

今回紹介する論文では、15kmロードレース後のタンパク質補給と糖質補給が筋ダメージに及ぼす影響を比較検証しています。

論文概要

出典

Ten Haaf, D., Flipsen, M. A., Horstman, A., Timmerman, H., Steegers, M., de Groot, L., Eijsvogels, T., & Hopman, M. (2021). The Effect of Protein Supplementation versus Carbohydrate Supplementation on Muscle Damage Markers and Soreness Following a 15-km Road Race: A Double-Blind Randomized Controlled Trial. Nutrients, 13(3), 858. https://doi.org/10.3390/nu13030858

方法
ダブルブラインドランダム化プラセボ対照試験

参加基準を満たした323名のランナーをランダムに下記の2群に割り当て
・プロテイン群(163名)
・カーボ群(160名)…プラセボ扱い
ただし、レース前の怪我やレース後のサプリメント摂取が出来なかった者などがいたため、最終的な分析対象者は下記のとおり
1日後のデータ:プロテインサプリメント群137名、糖質サプリメント群139名
2日後のデータ:プロテインサプリメント群124名、糖質サプリメント群127名
3日後のデータ:プロテインサプリメント群105名、糖質サプリメント群109名

サプリメント摂取の介入は下記のとおり実施
■1サーブの量・組成
プロテイン:
250ml、20gのミルクプロテイン(80%カゼイン、20%ホエイ)含有
タンパク質:20g、糖質9.6g、脂質:0.6g、エネルギー:123kcal

カーボ:
250ml、プロテインサプリメントと同エネルギーの糖質含有
タンパク質:0g、糖質:29.3g、脂質:0.6g、エネルギー:123kcal

■摂取タイミング・量
レース直後、1日後・2日後・3日後の朝食に1サーブ
レース当日、1日後、2日後の就寝前に2サーブ

測定・評価項目は下記のとおり
・主観的な筋肉痛

・客観的な筋肉痛
→デジタル圧力計を用いた圧痛テスト

・血液サンプル
→CK、LDH

・食事調査
→レース前1週間、レース当日・1日後・2日後

※ただし、客観的な筋痛と血液サンプルは一部対象者(合計149名)を対象

結果
・レース前1週間のタンパク質摂取量に群間差なし

・レース当日・1日後・2日後のサプリメントを除いたタンパク質摂取量(約1.10g/kg)、エネルギー摂取量、三大栄養素の比率に群間差なし

・15kmロードレースの相対強度は94%HRmax

・Intention-to-treat分析の結果、レース後の主観的な筋痛に群間差なし

・Per-protocol分析の結果、プロテイン群で24時間後の主観的な筋痛が高く、圧痛テストの閾値が低かった

・CK、LDHは群間差がなかった

解説

この論文は、15kmロードレース出場者を対象として、レース後のタンパク質補給の効果を同カロリーの糖質補給と比較検証しています。
得られた結果は、糖質補給と比べた場合、タンパク質を補給しても、筋肉痛や筋ダメージに関係する血液指標に対する回復促進効果がないことを示しています。

論文の著者らは、この原因として、サプリメントを除いた日々のタンパク質摂取量が比較的多かったことを理由に挙げています。
持久性アスリートに推奨されるタンパク質摂取量はいくつかの基準がありますが、この論文では1.2~1.4g/kg/日という推奨値をもとに、1.2g/kg/日を超えている人が糖質サプリメント群で42%もいたことを述べています(一方、プロテインサプリメント群は31%)。

その他の考えられる理由は、サプリメントの摂取タイミングも考えられます。
先行研究の結果を踏まえると、レース前やレース中のタンパク質に補給した場合、異なる結果となった可能性があります。

いずれにせよ、タンパク質の効果を謳う先行研究であっても、少なからずの糖質が含まれているものが多いのは事実です。
いくつかの論文を踏まえた個人的な見解としては、タンパク質が推奨量に達している場合、優先すべきは糖質な気がしています。

なお、この論文ではスポーツ科学では馴染みのない統計処理が行われていました。
このうち、Intention-to-treat分析は治療の意図による分析と呼び、対象者が実際にトライアルを完結したか否かに関わらず、分析対象にした上で統計処理を行います。
一方、Per-protocol分析は計画通りにトライアルを完了した対象者のみを分析する方法です。

まとめ

長距離走後のリカバリーはタンパク質より糖質の摂取を優先すべき