バーベルスクワットの前に長座体前屈をするとハムストリングスへの筋肥大刺激を高められる可能性

はじめに

バーベルスクワット(BSQ)は、下半身の筋肉を鍛えるレジスタンストレーニング(筋トレ)の代表的な種目です。

BSQでは体幹や背中を含めた数多くの筋肉が動員されますが、特に膝関節伸展の働きがある大腿四頭筋、股関節伸展の働きがある大殿筋・ハムストリングスの強化に効果的だと認識されています。

しかし、股関節伸展筋群の中でもハムストリングスは、股関節伸展および膝関節屈曲の作用を持つ一方で、スクワットでは股関節が伸展する際に膝関節が屈曲するため(ただし大腿二頭筋短頭を除く)、筋肉の長さ変化が少ないという欠点があります。
実際、BSQのみを8週間にわたり実施したトレーニング実験によると、筋肉量は大腿四頭筋で増加が認められた一方、ハムストリングスには変化が起きていませんでした。
(引用:Akagi, R., Sato, S., Hirata, N., Imaizumi, N., Tanimoto, H., Ando, R., Ema, R., & Hirata, K. (2020). Eight-Week Low-Intensity Squat Training at Slow Speed Simultaneously Improves Knee and Hip Flexion and Extension Strength. Frontiers in physiology, 11, 893. https://doi.org/10.3389/fphys.2020.00893

今回紹介する論文では、BSQの前に長座体前屈をすることで、BSQのパフォーマンス、筋活動および筋厚に及ぼす急性影響を検証しています。

論文概要

出典

Trindade, T. B., Neto, L. O., Pita, J., Tavares, V., Dantas, P., Schoenfeld, B. J., & Prestes, J. (2020). Pre-stretching of the Hamstrings Before Squatting Acutely Increases Biceps Femoris Thickness Without Impairing Exercise Performance. Frontiers in physiology, 11, 769. https://doi.org/10.3389/fphys.2020.00769

方法
筋トレ経験を有する14名の男性トレーニーを対象

事前に本試行で扱う重量を決定するためのプレテスト、本試行でのBSQの動作(短縮性収縮2秒、伸張性収縮2秒、パラレルスクワット)に慣れるための試行を実施
その後、下記2試行を別日にランダムに実施
・ストレッチ条件
・ストレッチなし条件

トライアルの流れは下記のとおり
・超音波検査
・120秒の休息
・一般的ウォームアップ
→8分間のサイクルエルゴメーター運動
・特異的ウォームアップ
→50%10RMの重量で8回のBSQ
・120秒の休息
・BSQ
→10RMの重量で限界まで実施
・120秒の休息
・BSQ
→10RMの重量で限界まで実施
・120秒の休息
・BSQ
→10RMの重量で限界まで実施
・超音波検査
・30分間の休息
・最大随意等尺性収縮(MVIC)

超音波検査では、外側広筋・内側広筋・大腿直筋・大腿二頭筋の筋厚を測定
BSQでは、反復回数と外側広筋・内側広筋・大腿直筋・大腿二頭筋・腸肋筋(脊柱起立筋)の筋活動レベルを測定(筋活動レベルはMVICの筋活動レベルで正規化)

ストレッチ条件では120秒の休息を下記のように過ごした
70秒の休息-40秒の静的ストレッチ(研究に携わるボランティアが長座位での姿勢の対象者の肩甲骨を徐々に押す)-10秒の休息

結果
・総トレーニング量(セット数×反復回数×重量)に群間差なし

筋厚
・外側広筋、内側広筋、大腿直筋は両群でSQ後に増加
・大腿二頭筋の筋厚はストレッチ条件でSQ後に増加

筋活動レベル
・大腿直筋はストレッチ条件で1セットに比べ2・3セットで増加
・外側広筋は両条件で1セットに比べ3セットで増加
・内側広筋はストレッチ条件で1セットに比べ2セット、2セットに比べ3セットでそれぞれ増加。ストレッチなし条件で1セットに比べ2・3セットで増加
・大腿二頭筋・腸肋筋は両条件で変化なし

解説

この論文は、BSQの前に長座体前屈をすると、BSQ直後にハムストリングスを構成する大腿二頭筋の筋厚が増加したことを示しました。
また、ストレッチの有無に関わらず、大腿四頭筋の筋厚はトレーニング直後に増加すること、セット数が後半になると大腿四頭筋の筋活動レベルが増加することも示されました。

筋トレ直後の筋厚の増加は、いわゆるパンプ(Muscle swelling)の程度を示していると言われています。
パンプは、代謝産物の蓄積や血流量増加によって起こると認識されている上、最近、トレーニング直後におけるパンプの程度は筋肥大を示唆する可能性が指摘されました。
(引用:Hirono, T., Ikezoe, T., Taniguchi, M., Tanaka, H., Saeki, J., Yagi, M., Umehara, J., & Ichihashi, N. (2020). Relationship Between Muscle Swelling and Hypertrophy Induced by Resistance Training. Journal of strength and conditioning research, 10.1519/JSC.0000000000003478. Advance online publication. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000003478)

BSQでのハムストリングスへの筋肥大効果は、大腿四頭筋に比べると劣るため、ストレッチなし条件で大腿二頭筋の筋厚が増加しなかった結果は、予想通りと言えます。
ではなぜBSQの前にストレッチをすると大腿二頭筋のパンプが起きたのでしょうか?
ストレッチの刺激によって神経筋系に何らかの変化が誘発されたと考えられますが、この論文の実験デザインからは推測できることに限りがあります。
また、この研究で行われた長座体前屈は対象者の柔軟性によっては脊柱屈曲の動作が大きくなるため、どれだけハムストリングスがストレッチされたのかも個人差が大きそうです。

いずれにせよ、トレーニング効果を左右する総トレーニング量や大腿四頭筋の筋活動レベル・筋厚に群間差がなかったことはネガティブな影響がなさそうなことを示唆しており、ハムストリングスへの筋肥大効果を高める手段として試す価値はあるのかもしれません。

まとめ

バーベルスクワットの前に長座体前屈をするとハムストリングスへの筋肥大効果が高まるかもしれない