低GI高糖質食vs高GI高糖質食vs高脂質食 持久系アスリートに最もオススメなアプローチは?

はじめに

持久系アスリートが気を付ける食事の摂り方として、不十分なエネルギー摂取量(ローエネルギーアヴェイラビリティ:LEA)や低糖質高脂質食があります。

当サイトでも以前にこれらのアプローチをとった時に起こり得る弊害を紹介しました。
・短期間のエネルギーアヴェイラビリティは、鉄吸収を妨げるホルモン分泌が亢進する

・短期間の低糖質高脂質食は、免疫、鉄制御、ストレスに関する血液指標にネガティブなレスポンスを招く

近年では三大栄養素の比率ではなく、その中身にも関心が集まっています。
つまり、量ではなく質的な観点でのアプローチです。
その代表例とも呼べるのが、食後血糖値の上昇度を示すGlycemic Index(GI)です。
基本的に同じ炭水化物でもGI値の低い食品は食物繊維(人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体)を豊富に含みます。
そのため、高GIの糖質に比べ、低GIの糖質は健康的な食事と言われています。

今回紹介する論文では、持久系スポーツ愛好家を対象として、
・高脂質低糖質群(High fat low carbohydrate: HFLC-G)
・高糖質低GI群(High carbohydrate low glycemic: LGI-G)
・高糖質高GI群(High carbohydrate high glycemic: HGI-G)
の3つのグループに分け、代謝応答や身体組成などに及ぼす影響を検証しています。

論文概要

出典

Zdzieblik, D., Friesenborg, H., Gollhofer, A., & König, D. (2022). Effect of a High Fat Diet vs. High Carbohydrate Diets With Different Glycemic Indices on Metabolic Parameters in Male Endurance Athletes: A Pilot Trial. Frontiers in nutrition, 9, 802374. https://doi.org/10.3389/fnut.2022.802374

方法
週3回以上の持久系トレーニングを行っている18-50歳の男性30名を対象
下記3グループに10名ずつ割り当て
・HFLC-G
糖質の摂取エネルギー比:65%以上、糖質のGI値:70超
・LGI-G
糖質の摂取エネルギー比:65%以上、糖質のGI値:70未満
・HFLC-G
脂質の摂取エネルギー比:65%以上、糖質:50g/日未満

実験期間:4週間

実験期間前後に下記項目の測定を実施
・身体組成
除脂肪量、脂肪量(BIA法)
・安静時の代謝応答
・最大下運動負荷
乳酸性閾値のワット(W)より20W高い強度で10分、血糖値、血中乳酸濃度などを計測
・最大漸増負荷
呼吸交換比(RER)、血糖値、血中乳酸濃度、運動継続時間などを計測

その他、胃腸のコンディションやトレーニングに関する主観的努力度などをVASで評価
食事摂取状況調査は、アプリで実施

結果
■食事摂取状況
実験期間中の糖質、脂質の摂取状況は群間差あり、ただし総エネルギー摂取量は群間差なし
HGI-GのGI値は実験開始前が53、実験期間中は74で有意に増加
LGI-GのGI値は実験開始前が55、実験期間中は39で有意に減少

■身体組成
LGI-G(72.6kg→70.2kg)とHFLC-G(78.4kg→75.4kg)は体重が有意に減少
→除脂肪量ではなく、脂肪量が減少

■安静時・運動時の代謝応答など
HFLC-Gは最大下運動負荷・最大漸増負荷時の血中乳酸濃度(曲線下面積)、安静・最大下運動負荷・最大漸増負荷時(曲線下面積、オールアウト時)の呼吸交換比が減少

LGI-Gは安静時・最大漸増負荷時(曲線下面積)の血中乳酸濃度、最大漸増負荷時(曲線下面積)の血糖値が減少

最大漸増負荷の運動継続時間はLIG-G(1.30分)、HGI-G(1.40分)で増加したが、HFLC-Gで減少(-1.79分)

■主観的なコンディション(VAS)
LGI-Gは主観的努力度、胃腸のコンディションが改善

解説

LGI-Gのパフォーマンス(運動継続時間)、代謝の柔軟性(最大下運動時の血糖値、毛中乳酸濃度の減少、ただしオールアウト時の血糖値、血中乳酸濃度に変化なし)、体調(VAS)の結果を踏まえると、他の2つのアプローチに比べ、高糖質低GI食が最も優れた結果と言えます。

評価項目に限界があるため、推察の域を脱しませんが、論文の著者らは高GI高糖質食の弊害(インスリン分泌による脂質酸化の抑制)、高脂質食の弊害(糖質代謝に関する酵素活性の低下などに伴う運動時の糖質利用の減少)を考慮した最適解が低GI高糖質食なのかもしれない、という見解をしています。

この論文は競技レベルの高いアスリートを対象としていないため、エリート持久系アスリートを対象とした場合に同じ結果になるのかは分かりません。
また、低GI高糖質食は食物繊維を豊富に含むため、レース中の胃腸症状を避けるためにも、競技直前の食事は少なからずモディファイする必要があります。

この論文で実際に採用された食事法の詳細は論文のSupplementary Materialで確認することができます。

まとめ

スポーツ愛好家に望ましい普段の食事は低GI高糖質食なのかもしれない