女子大学生サッカー選手の寝る前の食事と睡眠リカバリー

はじめに

アスリートを対象とした食生活と睡眠との関係は、トレーニング量、性別、競技種目、競技レベル、仕事・学業の状況など、ありとあらゆる要因による影響を受けます。
そのため、1つの論文で得られたエビデンスだけでスポーツ現場に直接活かすことは難しく、積み重なるエビデンスをその都度読み解いていく姿勢が大切です。

以前紹介した論文では、女子球技系エリートアスリートを対象とした結果、糖質摂取量が高い人は睡眠の質が低く(中途覚醒時間の増加、睡眠効率の低下)、飽和脂肪摂取量が高い人は睡眠の質が高かった(入眠潜時の低下)ことが報告されています。

今回紹介する論文では、女子大学生サッカー選手たちを対象として、就寝前2時間の食事状況と睡眠、自律神経系指標との関係を報告しています。

 

論文概要

出典

Greenwalt, C. E., Angeles, E., Vukovich, M. D., Smith-Ryan, A. E., Bach, C. W., Sims, S. T., Zeleny, T., Holmes, K. E., Presby, D. M., Schiltz, K. J., Dupuit, M., Renteria, L. I., & Ormsbee, M. J. (2023). Pre-sleep feeding, sleep quality, and markers of recovery in division I NCAA female soccer players. Journal of the International Society of Sports Nutrition, 20(1), 2236055. https://doi.org/10.1080/15502783.2023.2236055

方法
アメリカの女子大学生サッカー選手14名を分析対象
(ディビジョン1所属)

対象者は2020-2021年のシーズン中、ウェアラブルデバイス(WHOOP)を腕に24時間装着
測定データは次のとおり
・睡眠データ
睡眠時間、覚醒エピソード
・自律神経系データ
安静時心拍数、心拍変動、回復度(活動量や心拍数、心拍変動データから計算)

対象者は調査期間中、WHOOPのアプリを通して、3日に1回就寝前2時間の食事状況に関するアンケートに回答
アンケートでは、まず前夜の食事の有無を尋ねられる
食事をした場合には、いつ、何をどれぐらい食べたか、入眠を助けるサプリメントの摂取有無を回答

結果
就寝前2時間の食事摂取状況は次のとおり
エネルギー:330kcal
タンパク質:7.6g
脂質:12g
糖質:46.2g
※平均値

これらの食事はスナック食品やポップコーン、チーズスティック、ヨーグルト、アイスクリーム、クッキーなどの小さなデザートによるもの

就寝前の食事の大小で睡眠・自律神経系データに影響を及ぼすのかを検討したところ、統計学的に有意な影響はなかった
ただし、タンパク質摂取量は回復度と有意傾向(p = 0.06)の関連があった
具体的には、就寝前に5g以上摂取した人は5g未満の人よりも回復スコアが11.41%低い

解説

この論文は、女子大学生球技選手を対象とした結果、就寝2時間前のエネルギー摂取量、三大栄養素の各摂取量は睡眠データや自律神経系データに著しい影響を与えなかったことを示しています。

過去の記事でいくつか取り上げてきたように、同じ栄養素でも細かな要素によって睡眠に与える影響は異なります(例えば脂肪であれば飽和脂肪酸なのか不飽和脂肪酸なのか)。
この論文では、そういった細かな要素は調査されていない点に注意が必要です。

就寝前のタンパク質摂取と睡眠データとの関係については、先行研究間でもポジティブなもの(タンパク質を取ることでデータが良くなった)とネガティブなものがあります。
本論文では、5g以上のタンパク質をとった人で回復スコアが悪くなる傾向が観察されました。
ただ、一般的に就寝前のタンパク質摂取の効果を検証した研究は、より多量のタンパク質を摂取しています。
したがって、5gを閾値としたこの結果は実際のスポーツ現場において、あまり活かせることがないように思います。

こういった色々な限界があるものの、トータルでみると、就寝前2時間の軽い食事(300kcal程度)は、女性球技系選手の睡眠や睡眠中の自律神経系にはさほど影響を与えないという見方で良い気がします。

まとめ

女性球技系スポーツ選手の寝る前の軽い食事は睡眠や自律神経にあまり影響を与えない模様