Oura RingとPolar Vantage Mの計測精度

はじめに

かつては、身体活動量や睡眠時間、心拍数といった健康関連データを計測するには高額な機器が必要でした。
そのため、臨床や研究以外の目的で健康愛好家が健康関連データを収集するのは困難でした。

しかし、近年では衣服や身体(手首、腕、指など)に装着するウェアラブルデバイスが比較的安価で手に入るため、健康関連データは簡単に取得できるようになりました。

ウェアラブルデバイスの精度は、研究で活用される機器に比べると劣ることが容易に想像できますが、ある程度の妥当性が担保できるのであれば、活用に値します。

今回はOura RingとPolar Vantage Mという二つのウェアラブルデバイスの精度検証をしたプレプリントを紹介します。
Oura Ring・Polar Vantage Mは、ウェアラブルデバイスの中では比較的高額(約3-4万円)な商品です。

このうちOura Ringは、過去に睡眠トラック精度を検証した論文を紹介しています。


また、Oura ringは、欧米を中心として、多くの健康愛好家やスポーツ愛好家、アスリートが睡眠や回復のモニタリングに活用しています。

Polar Vantage Mはマルチスポーツ&ランニングGPSウォッチとして、主に持久性スポーツに取り組むアスリートで普及しているデバイスです。

論文概要

出典

Henriksen, A., Svartdal, F., Grimsgaard, S., Hartvigsen, G., & Hopstock, L. (2021). Polar Vantage and Oura physical activity and sleep trackers: A validation and comparison study. medRxiv, 2020-04.

方法
21名の健常成人(男性:12名、女性:9名、平均年齢:33歳)を対象

データ収集期間は5日間(最初と最後の1日を除いた3日間のデータ分析を基本)
対象者はPolar Vantage M(手首)、Oura ring(指)、Actiheart(研究機器、胸)、ActiGraph(研究機器、腰)を装着した状たで普段通りの生活を過ごした

計測データは下記のとおり
■Polar Vantage M
・歩数
・中強度-高強度身体活動量(Moderate-to-vigorous physical activity:MVPA)
・総エネルギー消費量
・睡眠時間

■Oura ring
・歩数
・MVPA
・総エネルギー消費量
・睡眠時間
・安静時心拍数

歩数、MVPA、総エネルギー消費量はActiGraphと比較
睡眠時間は睡眠日誌から得られた睡眠時間(Time in bed)と比較
安静時心拍数はActiheartと比較

結果
・歩数(Polar Vantage M:r = 0.75、Oura ring:r = 0.77)、MVPA(Polar Vantage M:r = 0.76、Oura ring:r = 0.70)、総エネルギー消費量(Polar Vantage M:r = 0.69、Oura ring:r = 0.70)は二つの機器ともにActiGraphと強い相関関係があった

・睡眠時間(Polar Vantage M:r = 0.74、Oura ring:r = 0.82)は二つの機器とも睡眠日誌から得られたTime in bedと強い相関関係があった

・安静時心拍数(Oura ring:r = 0.90)はOuraringとActiheartで強い相関関係があった(Polar Vantage Mは未評価)

平均絶対パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error: MAPE)の結果は下記のとおり
■Polar Vantage M
・歩数:72%
・MVPA:143%
・総エネルギー消費量:19%
・睡眠時間:13%

■Oura ring
・歩数:69%
・MVPA:49%
・総エネルギー消費量:13%
・睡眠時間:10%
・安静時心拍数:3%

解説

このプレプリントは、健常成人を対象としてPolar Vantage MとOura Ringで得られた日常生活中の健康関連データの精度検証をしました。
その結果、二つの機器ともに研究で使われている機器(ActiGraph、Actiheart)や睡眠日誌で得られた数値との間に強い相関関係を認めました。

MAPEとは、各データの実測値と正解値との差について、正解値で割った値(=パーセント誤差)の絶対値を計算し、その総和をデータ数で割った値(=平均値)のことです。

どこまでのMAPEを許容するのかは論文によって異なりますが、この論文では日常生活中のデータ収集ということを踏まえ、10%を下回る場合に誤差が低いと判断しています。
基準に従って判断すると、二つの機器ともに歩数、MVPA、総エネルギー消費量は誤差が大きいと言えます。
(ただし、特に総エネルギー消費量についてはActiGraphでの計測自体の精度が低く、結果に大きな意味を持たないと考えられる)

ウェアラブルデバイスでどこまでの精度を求めるのか、すなわち計測して意味のあるデータとするのかは、対象者のニーズなどによって異なります。
個人的には、運動時ではなく、歩数や睡眠時間、安静時心拍数といったデータの場合、研究で使われる機器とある程度相関があるのであれば、実用に値すると考えます。
ただしその場合でも異なる機器のデータを比較することには限界があるため、あくまでも評価は同一機器内でする必要があります。

まとめ

Oura RingとPolar Vantage Mで得られる健康関連データは研究で使われる機器と強い相関関係が認められる