座りがちな時間を睡眠時間に充てることでメンタルヘルスの悪化を予防できるかもしれない

2021年6月7日

はじめに

Sedentary Behavior (Sedentary time) とは、睡眠時以外で座位あるいは横たわっているといった身体活動レベルが低い状態(時間)のことを言います。
以前、BMIの高い男性が睡眠に与える影響は、Sedentary Behaviorが仲介することを報告した論文を紹介しました(リンク)。

この論文以外にも、数多くの研究によって過度なSedentary Behaviorが健康に悪影響を与えることが明らかになっています。
また論文によっては運動・スポーツなどの中-高強度の活動量よりもSedentary Behaviorの方が健康により影響を与えると報告しています。

一方で、これまでの研究では睡眠時間、Sedentary time、身体活動レベル(低強度・中強度・高強度の時間)といった各指標を独立して分析していました。
1日は24時間であり、1つの行動に費やす時間が増えれば、他の行動に費やす時間が減少するという特徴を踏まえると、これまでの方法には限界があります。

今回は、日本人労働者を対象としてCompositional dana analysis(組織データ分析)と呼ばれる統計手法を用いて、1日の過ごし方とメンタルヘルスとの関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Kitano, N., Kai, Y., Jindo, T., Tsunoda, K., & Arao, T. (2020). Compositional data analysis of 24-hour movement behaviors and mental health in workers. Preventive medicine reports, 20, 101213. https://doi.org/10.1016/j.pmedr.2020.101213

方法
明治安田厚生事業団体力医学研究所が行う前向きコホート研究(明治安田ライフスタイル)の2017年から2018年に収集された1647人の生命保険会社従業を対象
データの欠損などによって最終的な分析対象者は1095名

下記項目を測定
・身体活動レベル(加速度計): Sedentary Behavior(1.5METs以下)、低強度(1.6-2.9METs)、中-高強度(3.0METs以上)

・睡眠時間(質問紙)

・心理的苦痛(Kessler心理的苦痛尺度の日本語版)

・ワークエンゲージメント(Utrecht Work Engagement Scaleの短縮日本語版)

共変量として年齢、性別、BMI、教育年数、経済状態、配偶者の有無、飲酒習慣、喫煙習慣、職種、雇用状態および週平均残業時間を考慮した上で、身体活動レベルとメンタルヘルス(心理的苦痛・ワークエンゲージメント)との関係を検証

結果
・就業日の睡眠、Sedentary Behavior、身体活動の時間は、心理的苦痛とワークエンゲージメントに関係していた

・就業日における睡眠時間の短縮、Sedentary Behavior・低強度の活動時間の増加が心理的苦痛の悪化と関係

・モデルによると、就業日においてSedentary Behavior・低強度身体活動時間を60分減らし、その分を睡眠に充てることで、心理的苦痛が不良になる確率11.4-26.6%低くなる

・中-高強度の活動時間は心理的苦痛とワークエンゲージメントと有意な関係なし

解説

対象者の主観によって睡眠時間を評価している点に限界がありますが、日本人労働者を対象とした貴重な研究です。

この論文の主な発見は次の二つです。
・休日ではなく、平日の時間の使い方が労働者のメンタルヘルスに関係する
・平日のSedentary timeや低強度(ゆっくりとした歩行など)の活動時間を減らして、その分を睡眠に充てることで、メンタルヘルスが不良になる可能性が低くなる

この論文でも運動・スポーツなどの中―高強度の活動時間よりもSedentary timeや低強度の活動時間が健康度(メンタルヘルス)に影響を与えていました
また、Sedentary timeや低強度の活動時間は、中―高強度の活動時間に充てるのではなく、睡眠時間に充てることで精神衛生に好影響を与える可能性があるという結果も注目に値します。

このような研究の結果は、対象者の特性に依存すると考えられ、日本人は世界的にも睡眠時間が少ないと言われており、睡眠時間を増やすことで恩恵を受けやすいと考えられます。

平日のSedentary timeや低強度の身体活動時間の大半は仕事中のものであることを踏まえると、労働者のメンタルヘルスの悪化を予防するためには、低強度の活動時間を減らす施策や睡眠時間確保のための残業禁止など、職場での抜本的な改革が必要なことを示唆しています。

まとめ

日本人労働者は平日の座りがちな時間を睡眠に充てることで精神衛生に良い影響を与える可能性がある

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