健康のために必要な歩数に関する新見解

はじめに

身体活動量を表す代表的指標として歩数があります。
歩数は、比較的安価なスマートウォッチや歩数計で簡単に計測できるため、健康愛好家にとってもターゲットにしやすい指標です。

今回はアメリカで実施されたコホート研究のデータをもとに、歩数と全死亡率との関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Paluch, A. E., Gabriel, K. P., Fulton, J. E., Lewis, C. E., Schreiner, P. J., Sternfeld, B., Sidney, S., Siddique, J., Whitaker, K. M., & Carnethon, M. R. (2021). Steps per Day and All-Cause Mortality in Middle-aged Adults in the Coronary Artery Risk Development in Young Adults Study. JAMA network open, 4(9), e2124516. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.24516

方法
1985-1986年の時点で18-30歳の成人を対象として開始したThe Coronary Artery Risk Development in Young adults(CARDIA)研究のデータを利用
本研究は、2005-2006年(38-50歳)に加速度計を装着するフォローアップ調査に参加した2,232人のうち2,110人を分析対象(平均追跡期間:10.8年)

歩数は、加速度計のデータをもとに7,000歩/日未満、7,000-9,999歩/日、10,000歩/日以上の3グループに分類
その他、強度(30分間の最大歩数、100歩/分以上の時間)も分析対象

歩数、強度と全死亡率との関連を年齢、人種、教育、喫煙習慣、BMI、飲酒習慣、食事の質、主観的健康状態、血液プロフィール、既往歴の影響を考慮した上で検証

結果
・対象者(2,110人)のうち、72人が追跡期間中に亡くなった
・対象者のうち、半数は9,000歩/日を超えていた

・7,000歩/日未満のグループは、他の2グループに比べてBMIが高く、主観的健康状態が悪く、高血圧症や糖尿病の罹患率が高かった

・共変量の影響を考慮した上で、7,000歩/日未満グループに比べて7,000-9,999歩/日グループ(ハザード比:0.28)・10,000歩/日以上のグループ(ハザード比:0.45)は全死亡率が低かった

・歩数の分布と全死亡率との関連をみると、おおよそ10,000歩/日が最もハザード比が低く、10,000歩/日を超えても全死亡率が下がる傾向はなかった

・強度と全死亡率との間には有意な関連がなかった

解説

この論文は、当時38-50歳のアメリカに住む成人を約11年間追跡し、歩数と全死亡率との関連を検証しました。

なお、この論文で用いられたハザード比とは相対的な危険度を比較する手法です。
今回紹介した論文の場合、7,000歩/日未満のグループのハザード比を1とし、その他のグループのハザード比が1より小さい場合、早期死亡リスクが低いという解釈になります。

その結果、交絡因子の影響を考慮した上で、日々の歩数が7,000歩を超えると、全死亡リスクが大幅に低いことが明らかになりました。
一般的には「1日10,000歩」を目安にされることが多いですが、7,000歩を境に差が認められた結果は注目に値します。
また、この論文の結果を踏まえると、歩数が10,000歩を超えても全死亡率のリスクに対しては追加的な効果は得られないようです。

強度に関する指標と全死亡率との間に関連が認められなかった結果も興味深いものです。
以前紹介した論文によると、同じ歩数でも早歩きを加えると、メタボリックシンドローム関連指標への改善効果が高まったことが明らかになっています。

したがって、全死亡率(寿命)とメタボリックシンドロームや心血管イベントとでは、求められる身体活動の目安は異なるのかもしれません。

まとめ

1日7,000歩以上歩くことで早期死亡のリスクは軽減できる模様