24時間山岳耐久レースの栄養補給とパフォーマンス

はじめに

以前、24時間走世界選手権の出場ランナーを対象とした論文を紹介しました。

その論文によると、多くのランナーが国際スポーツ栄養学会の推奨する糖質・エネルギー量をレース中に摂取していたことや、レース中により多くのエネルギーを摂っていた者ほど走行距離が多い傾向にありました。

今回紹介する論文は、同じ24時間走でも起伏のあるウルトラトレイルレースを対象としています。
さらにレース中だけでなく、レース前の栄養補給を調査した上で、血糖変動も含めてパフォーマンスとの関係を検証しています。

論文概要

出典

Kinrade, E. J., & Galloway, S. (2021). Dietary Observations of Ultra-Endurance Runners in Preparation for and During a Continuous 24-h Event. Frontiers in physiology, 12, 765888. https://doi.org/10.3389/fphys.2021.765888

方法
スコットランドで開催されたGluenmore-24 trail raceに出場したランナー18名を対象
(男性11名、女性7名)
レースは1周の距離が6.4km、高低差が80mのコースを周回形式で開催
(最後の1時間は1周400mの芝生の走行が許可)
レース中の平均気温は16度(最低気温:19度、最低気温:10度)

レース2日前から食事摂取状況を調査
レース前の食事はPre-race Diet(2日間)、Pre-race Meal(レースの1-4時間前)
に分けて分析
レース中はIn-Race Diet

レース中の血糖変動を持続型血糖測定装置で測定

15名は別日にトレッドミルテストを実施し、最大酸素摂取量、最高心拍数を測定
7名はレース中の心拍数を測定

結果
※数値は平均値

■レースパフォーマンス等
・走行距離は129.7km
・10名は24時間連続走行、6名は3-8時間の睡眠中断、2名は怪我や胃腸症状によって途中で走行中止

・心拍数は68%最高心拍数(45%最大酸素摂取量相当)
・最大酸素摂取量とレース距離に正の相関関係(r = 0.57)

■栄養摂取状況
【Pre-race Diet】
・糖質摂取量は4.0/kg/日(総エネルギー摂取量の42%相当)
・糖質摂取量の絶対値(g/日、r = 0.78)、相対値(g/kg/日、r = 0.70)とレース距離に正の相関関係
→統計上、糖質摂取量が1g/kg増えると、走行距離が10.6km増える
・総エネルギー摂取量の絶対値(kcal/日、r = 0.57)、相対値(kcal/kg/日、r = 0.56)とレース距離に正の相関関係
・水分摂取量とレース距離に有意な相関関係なし
・糖質摂取量が5g/kg/日を基準に2群に分けた場合、5g/kg/日以上摂っていたランナーの距離が長い(149.3km対121.0km)
・糖質摂取量の絶対値(g/日、r = 0.57)、相対値(g/kg/日、r = 0.53)とウルトラマラソンの経験年数に正の相関関係

【pre-race Meal】
・糖質摂取量は1.5g/kg/日(総エネルギー摂取量の49%相当)
・総エネルギー摂取量は878kcal
・水分摂取量は940ml
・糖質摂取量の絶対値(g/日、r = 0.68)、相対値(g/kg/日、r = 0.57)とレース距離に正の相関関係

【In-Race Meal】
・総エネルギー摂取量は3907kcal(179kcal/時)
・摂取比率は糖質が69%、タンパク質が8%、脂質が21%
・糖質摂取量は33g/時
・糖質摂取量の最高値は5時間経過時点で観察、1、17、19、20、22、22経過時で低かった
・糖質摂取量は721g、タンパク質摂取量は78g、脂質摂取量は90g
・総エネルギー摂取量の相対値(kcal/kg、r = 0.52)とレース距離に正の相関関係
・糖質摂取量の絶対値(g/日、r = 0.65)、相対値(g/kg/日、r = 0.64)とレース距離に正の相関関係
・糖質摂取量が40g/時を基準に2群に分けた場合、40g/時以上摂っていたランナーの距離が長い(148.4km対120.2km)
・統計上、糖質摂取量が1g/kg増えると、走行距離が2.4km増える

■血糖変動
・レース中の平均血糖値は6.9mmol/L(124mg/dl相当)
・平均血糖値とレース距離に有意な相関関係なし
・平均血糖値と糖質摂取量に有意な相関関係なし

解説

24時間走や完走時間が24時間前後になるウルトラトレイルレース(100マイル)に取り組むアスリートに参考となる論文です。

得られた結果は、レース前、レース中に共通して糖質摂取量が多いランナーほどレースパフォーマンスが優れていたことを示しています。
この結果は、ロードの24時間走世界選手権出場ランナーを対象とした論文の結果を支持するものです。
したがって、約1日で終わるウルトラマラソンでは胃腸症状が起きないことを前提として、可能な限り十分な糖質を摂取することが大切と言えます。

この論文ではPre-race Dietの糖質摂取量を5g/kg/日を基準に2群に分類していました。
しかし、5g/kg/日という数値は、長時間スポーツに取り組むアスリートの摂取量として十分なものではありません。
事実、国際スポーツ栄養学会の推奨は、長時間トレーニングの場合、8~12g/kg/日となっています。
この論文の結果を踏まえると、ウルトラマラソンランナーはレース前の糖質摂取量を意図的に増やすことで、パフォーマンスが向上できる可能性があります。

持続型血糖測定装置が普及した昨今、ウルトラマラソンの血糖動態に関する報告が増えてきました。
しかし、この論文によると、糖質摂取量やパフォーマンスとの関係は不明瞭であったため、どうやって数値を読み取るかは難解な作業と言えます。
この点について論文の著者らは、血糖値に関するホルモンのサーカディアンリズムの影響を指摘していました。

異なる距離のウルトラトレイルレースを対象とした論文によると、平均完走時間が25.2時間であった160kmレースでは、最大酸素摂取量との間に有意な相関関係がありませんでした。

一方、この論文では最大酸素摂取量とレース距離との間に有意な正の相関関係がありました(r = 0.57)。
両者の違いは定かではありませんが、サンプルサイズの影響が強いと考えられます(以前に紹介した論文は8名を対象)
個人的には、どれだけ時間が長くなってもフィットネスが高ければ同じペースで走行した際の相対強度が低く済むため、見かけの因果率に関わらず、パフォーマンスにポジティブな影響をもたらすと考えています。

まとめ

24時間山岳耐久レースで優れたパフォーマンスを発揮したランナーは、レース前・レース中の糖質摂取量が多く、最大酸素摂取量が高い