父子マラソンのギネス記録を保持する親子のデータ

2022年3月21日

はじめに

2019年10月27日、アイルランド出身の父子(Eoin Hughes氏、Tommy Hughes氏)がドイツで開催されたフランクフルトマラソンにて、父子マラソンギネス記録を更新しました。

父であるTommy Hughes氏(当時59歳)は2時間27分52秒、息子のEoin Hughes氏(当時34歳)は2時間31分30秒で完走し、二人の合計タイムは4時間59分22秒でした。

今回はこの親子の生理学・トレーニングなどを報告したケーススタディを紹介します。

論文概要

出典

Louis, J. B., Bontemps, B., & Lepers, R. (2020). Analysis of the world record time for combined father and son marathon. Journal of applied physiology (Bethesda, Md. : 1985), 128(2), 440–444. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00819.2019

事例の特徴
■対象者
父親:
21-32歳はフルタイムのマラソンランナー
オリンピック出場経験あり(自己記録:2時間13分59秒)
16年間のトレーニング中断を経て48歳からトレーニングを再開し5kmレースからマラソン大会に出場
年齢別のマラソン世界記録を保持

息子:
30歳までは習慣的なスポーツ経験なし
30歳で初出場した10kmレースの記録は42分(当時は週2回の練習)
その後、週5-7回の練習を積み、10kmレースが30分51秒、ハーフマラソンが1時間8分30秒まで自己記録を更新
マラソンはギネス記録達成レースが初出場

■トレッドミルテスト
ランニングエコノミー(酸素コスト):
父親→203ml/kg/km@15km/h、211ml/kg/km@16km/h、210ml/kg/km@17km/h、206ml/kg/km@18km/h
息子→204ml/kg/km@15km/h、202ml/kg/km@16km/h、199ml/kg/km@17km/h、197ml/kg/km@18km/h

最大酸素摂取量(VO2max):
父親→65.4ml/kg/min
息子→66.9ml/kg/min

マラソンの走速度の生理応答:
父親→90.9%VO2max(~59ml/kg/min)、90.9%HRmax
息子→84.5%VO2max(~56ml/kg/min)、93.3%HRmax

■トレーニング状況
レース前2カ月間の走行距離:
父親→180±21km/週
息子→140±33km/週

ともにほとんどの練習をマラソンペースより遅い速度で走行
ただし、週末は5kmからハーフマラソンの距離のロードレースに出場し、マラソンペースより早いペースで走行

■マラソンレース
スタート時の気象条件:気温13度、湿度78%

シューズ:ともにNike Vapofly NEXT%(ナイキ社厚底シューズ)

栄養補給:
父親→中間地点と32km地点でMaurten ABのジェル(糖質:25g)を1個ずつ摂取、ほとんどの給水エリアで水を補給
息子→Marten ABのジェルを1個摂取、水分補給はMaurten ABのスポーツドリンク(500ml当たりの糖質量79g)で実施

レースパフォーマンス:
父親→前半が1時間14分12秒、後半が1時間13分20秒のネガティブスプリット、走速度の変動係数は0.8%
息子→前半が1時間12秒54秒、後半が1時間18分36秒のポジティブスプリット、走速度の変動係数は8.5%(30km以降、ペースが大幅に低下)

解説

ユニークなケーススタディです。

有酸素フィットネス(全身持久力)は少なからず遺伝することが知られていますが、流石はオリンピックランナーの息子です。
30歳まで習慣的なトレーニング経験がなかったのにも関わらず、4年後にはマラソンを2時間31分で完走する走力を手に入れています。
また、10kmレース、ハーフマラソンのタイムや生理学指標(最大酸素摂取量は父親とほぼ同じ、ランニングエコノミーは父親よりやや優れる)を踏まえると、レース経験を積めばさらなるタイム短縮も期待できると考えられます。

一方、オリンピックランナーの父親も流石の走力です。
トレーニングを中断していた16年間でフィットネスは大幅に低下していたと思われますが、沈丁花は枯れても芳しだと実感します。
加齢に伴い有酸素フィットネスは低下することを踏まえると、59歳でVO2maxが65.4ml/kg/minとエリートレベルなのはポテンシャルの高さが伺えます。

トレーニング経験が豊富な中高齢ランナーは、筋骨格系の傷害によって十分なトレーニングを積めなくなることがあり、それが結果としてパフォーマンスの低下に繋がるケースがあります。
あくまでも可能性の一つですが、父親は16年間トレーニングを中断していたことが関節や筋肉の温存に繋がり、トレーニング再開後のパフォーマンスにプラスに働いたことも考えられます。

まとめ

父子マラソンギネス記録保持者の親子は優れた有酸素フィットネスを持っている