筋トレも有酸素もしている人は慢性疾患が少ない

2021年10月24日

はじめに

運動・トレーニングにはいくつかの種類がありますが、健康度を高める代表的なアプローチとしては有酸素性運動(有酸素)とレジスタンストレーニング(筋トレ)が挙げられます。

これまでの研究成果をもとにすると、一般的に有酸素は心血管疾患や糖尿病、認知症などのリスク軽減に効果的な一方、筋トレは加齢に伴う筋肉量や骨密度の減少の抑制に役立ち、転倒による骨折予防や生活の質の維持に貢献すると考えられます。

ただし、近年の研究では有酸素で得られる効果は、筋トレであっても得られることも明らかになっています。
例えば、日本の労働者を対象とした疫学調査によると、仕事中の身体活動レベル、喫煙歴、アルコール消費などの交絡因子を考慮したとしても、筋トレを実施していた人たちは2型糖尿病の発症リスクが30%以上低いことが明らかになっています。

いずれにせよ有酸素と筋トレが身体に与える影響は異なるため、どちらを実施するよりも、両方を満遍なく実施した方が健康面にポジティブな影響を与える可能性があります。

世界保健機関(WHO)の「運動・身体活動と座位行動に関するガイドライン」によると一般的な成人 18-64歳に対しては下記が推奨されています。
週に150~300分の中強度の有酸素、もしくは75~150分の高強度の有酸素運動、またはその組み合わせで同等の時間・強度となる身体活動を実施すること
週に2日は、中強度以上の負荷をかけた筋力トレーニングを取り入れること
座位行動は低強度でもいいので身体活動に置き換えること
(引用:World Health Organization. (‎2020)‎. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/handle/10665/336656

今回はアメリカの成人を対象とした大規模調査をもとに、有酸素と筋トレの両方で推奨量を満たしている人は、全く満たしていない人あるいは片方を満たしている人に比べて慢性的な健康状態が優れているのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Bennie, J. A., De Cocker, K., Teychenne, M. J., Brown, W. J., & Biddle, S. (2019). The epidemiology of aerobic physical activity and muscle-strengthening activity guideline adherence among 383,928 U.S. adults. The international journal of behavioral nutrition and physical activity, 16(1), 34. https://doi.org/10.1186/s12966-019-0797-2

方法
2015年のBehavioral Risk Factor Surveillance System(BRFSS 2015)に関するデータを利用
BRFSS2015は電話による横断調査、アメリカ全50州、コロンビア特別区、プエルトリコ、グアム州の保険局で実施
無作為に選ばれた18歳以上からデータを収集(回答率の中央値は47.2%)

アンケートをもとに有酸素と筋トレの各項目について、WHOの身体活動ガイドラインを満たしているのかを調査

慢性的な健康状態として心血管系慢性疾患6つ(高血圧、高コレステロール、心筋梗塞、冠状動脈性心疾患、脳卒中、糖尿病)、一般的な慢性疾患6つ(うつ病、慢性閉塞性肺疾患、喘息、腎臓病、癌、関節炎/関節リウマチ)について有病の有無を調査

共変量として人口統計学的情報(年齢、性別、収入、人種/民族性、教育)、生活習慣(主観的な健康度、BMI、喫煙習慣)を考慮した上で運動習慣と慢性的な健康状態との関係を調査

結果
・分析対象者38万3928人の内訳は下記のとおり
→有酸素・筋トレの両方を満たしていた人(両方):20.3%
→有酸素のみ満たしていた人(有酸素):30.2%
→筋トレのみ満たしていた人(筋トレ):9.9%
→両方満たしていない人(未実施):39.6%

・心血管系慢性疾患は6項目全てで両方が最も有病率が低かった
※未実施を1.0とした場合の心血管系慢性疾患の有病率
→両方:0.44-0.76
→筋トレ:0.59-0.77
→有酸素:0.68-0.94

・一般的な慢性疾患はガンを除いた5項目で両方が最も有病率が低かった

・心血管系慢性疾患と一般的な慢性疾患の総数(4個以上、5個以上、6個以上)は両方が最も有病率が低かった
※未実施を1.0とした場合の4個以上、5個以上、6個以上の有病率
→両方満たしている人:0.33-0.46
→筋トレを満たしている人:0.67-0.69
→有酸素を満たしている人:0.50-0.60

解説

WHOによると、世界中の人の身体活動がより活発になれば年間で最大500万人の死を避けることができるとされています。
それにも関わらず、多くの人は推奨される身体活動量を確保していません。
アメリカの成人を対象としたこの論文においても、有酸素と筋トレの両方でガイドラインの推奨量を満たしている人は全体の約20%と少数派でした。

この論文の主な結果は、調査された12個の慢性疾患のうち、ガンを除いた11個で有酸素と筋トレの両方で推奨量を満たしている人が最も有病率が低いということです。
したがって、有酸素のみ、あるいは筋トレのみを行うことよりも、両方を満遍なく実施することで良好な健康状態を保てる可能性が高まるといえます。

この論文は横断調査のため因果関係を明らかにしているわけではないことや、自己申告をもとに身体活動量を評価しているという研究上の限界があります。

まとめ

筋トレと有酸素を満遍なく実施することでより健康的になれる