ラマダンでも工夫次第で持久性パフォーマンスが向上する可能性

2022年4月27日

はじめに

ラマダンとは、イスラム教徒の五行のひとつである断食(サウム)を行う月のことです。
イスラム教徒に特異的な断食は、近年注目を集めている食事時間制限法(Time restricted Feeding: TRF)の一つの形とも言えます。

TRFは減量やメタボリックシンドローム改善を目的として研究が進んだ印象がありますが、近年ではアスリートを対象とした研究も報告されています。
当サイトでも以前、長距離ランナーを対象にTRFの効果を検証した論文を紹介しました。


その論文によると、8時間ダイエット(8:16ダイエット)は、通常の食事と総摂取エネルギーが均等であっても、体脂肪減少が期待できるとされています。

イスラム教徒は、ラマダン期間の30日間にわたり夜明けから夕暮れまで飲食を控えるため、食事は日の出前の「スフール」と日没後の「イフタール」の2回が基本となります。
今回は長距離ランナーを対象として、ラマダンの前と最終週にトレッドミルテストを実施した論文を紹介します。

論文概要

出典

Al-Nawaiseh, A. M., Bataineh, M. F., Kilani, H. A., Bellar, D. M., & Judge, L. W. (2021). Time-Restricted Feeding and Aerobic Performance in Elite Runners: Ramadan Fasting as a Model. Frontiers in nutrition, 8, 718936. https://doi.org/10.3389/fnut.2021.718936

方法
15名の長距離ランナーを対象(年齢23.9歳、身長170.9cm、体重60.8kg、安静時心拍数48.8bpm、最高酸素摂取量71.1ml/kg/min)

ラマダンの前と最終週にトレッドミルテストを実施
加えて、形態・身体組成、食事調査、主観的睡眠を調査

結果
・体重、体脂肪率、除脂肪体重は変化なし

・トレーニング量は、ラマダン前に比べて減少(95%信頼区間:-16.4分--40.8分)

・総エネルギー摂取量(ラマダン前:2989.7kcal/日、ラマダン最終週:2523.2kcal/日)、糖質摂取量(ラマダン前:446.0g/日、ラマダン最終週:379.3g/日)、脂質摂取量(ラマダン前:81.5g/日、ラマダン最終週:72.2g/日)、水分摂取量(ラマダン前:4.2L/日、ラマダン最終週:2.5L/日)はラマダン前に比べて減少
・タンパク質摂取量(ラマダン前:118.1g/日、ラマダン最終週:88.6g/日)は変化なし

・トレッドミルテストのTime to exhaustion(ラマダン前:1392.9秒、ラマダン最終週:1448.4秒)と最高走速度(ラマダン前:18.6km/h、ラマダン最終週:19.7km/h)は改善

・トレッドミルテストの同一速度走行時の心拍数は、ラマダン前に比べて低下

解説

この論文は、コントロール群のない観察研究です。
したがって、結果を拡大解釈しないように気を付ける必要があります。

論文では、イスラム教徒の長距離ランナーを対象として、ラマダンの前と最終週でトレッドミルテストを行った結果、Time to Exhaustionや最高走速度といった持久性パフォーマンスの改善が認められました。

TRFでは1日をとおした総エネルギー摂取量が減少することによって減量が起こる場合が多いです。
しかし、この論文ではラマダンの前と最終週で体重に有意差がありませんでした。
この原因としては、トレーニング量が減少したことによって、総エネルギー消費量が減少したことが影響したと考えられます。

一般にカロリー制限やTRFでは除脂肪体重(≒筋肉量)が落ちやすい一方で、タンパク質の積極的な摂取は、減量期の筋肉量の低下を防ぐ効果が期待できます。
この論文の対象者は、糖質と脂質の摂取量がラマダン最終週で有意に減少していたものの、タンパク質の摂取量は保たれており、そのことが除脂肪体重の維持に寄与した可能性があります。

カロリー制限期間中に高負荷のトレーニングを実施するとリカバリーが阻害され、オーバートレーニングによるパフォーマンス低下や感染症罹患のリスクが高まる恐れがあります。
したがって、この論文の対象者のようにトレーニング量を減らすアプローチは合理的な対策だと言えます。

この論文は研究者から対象者に対して、ラマダン期間中の食事やトレーニングに関して詳細な規定や指示はありませんでした。
個人的には、イスラム教徒のアスリートは、ラマダンに対する実践知に優れ、食事、トレーニング、睡眠といったコンディションを最適化する能力が高く、実践知のない者が何となく日中の食事を摂らないといったアプローチをしたら、悪影響が生じる可能性が高いと考えています。
つまり、我々日本人のように断食に慣れていないアスリートの場合、同様の結果が得られるのかは定かではありません。

まとめ

ラマダン期間を過ごしてもイスラム教徒の長距離ランナーはパフォーマンスを向上できる可能性がある