24時間トレッドミル走中の生理的変化

はじめに

以前、トレッドミルで行われた80.5km模擬レースのパフォーマンス(タイム)と生理学・フォーム指標との関係を検証した論文を紹介しました。


その論文では、約8時間の運動時間であった80.5km模擬レースでは、レース中のランニングエコノミーの悪化を防ぐことが優れたパフォーマンスに繋がることが示唆されています。

今回は、より時間の長い24時間模擬走を対象として、レース中の生理学応答とパフォーマンスとの関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Gimenez, P., Kerhervé, H., Messonnier, L. A., Féasson, L., & Millet, G. Y. (2013). Changes in the energy cost of running during a 24-h treadmill exercise. Medicine and science in sports and exercise, 45(9), 1807–1813. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318292c0ec

方法
14名の男性ランナーのうち、模擬レースを完走した12名を分析対象

対象者は2回実験室を訪問(1回目:漸増負荷試験、2回目:24時間トレッドミル走)

■漸増負荷試験の測定項目
最大酸素摂取量(VO2max)、乳酸性閾値、VO2maxの走行速度(VVO2max)など

■24時間模擬走の実施条件・測定項目
できるだけ長い距離を走破する最大努力形式
ただし、開始10分後(プレ)と2時間ごとに4分間の8km/h走行を実施し呼気ガスを測定
心拍数は24時間を通して連続測定

結果
※数値は平均値
■レースパフォーマンス
走行距離:149.2km(トレッドミルで実際に走行していた時間:18時間39分)
レース中の相対強度:39%VVO2max、68%HRmax

■レース中の速度・生理指標の変化
走行速度:
8時間経過時までほぼ一定、以降は終了まで漸減的に減少

ランニングエコノミー:
酸素摂取量はプレに比べて4時間経過時で増加、その後8時間経過時まで増加し続けた後、残り時間は増加したままで一定

エネルギーコストはプレに比べて8・12時間経過時で増加

心拍数:
スタート時に比べて6時間経過時まで増加し、その後は減少

■生理学指標同士の相関関係
レース中の相対強度(VVO2max)とレース前後のエネルギーコストの変化率(Δエネルギーコスト)との間に正の相関(r = 0.75)

解説

本論文は、トレッドミルで行われた24時間模擬走の生理的変化を検証した結果、1) ランニングエコノミーは悪化すること、2) レース中の相対強度(%VVO2max)を高く保てたランナーはレース中のランニングエコノミーが悪化傾向にあったこと、を明らかにしました。

ランニングエコノミーに関する指標のうち、酸素摂取量に比べるとエネルギーコストは変化の程度がマイルドでした。
これは、エネルギーコストは糖質・脂質の利用割合の変化を反映していることが理由だと考えられます。
(超長時間運動では運動時間の増加に伴い脂質の利用割合が増加するが、糖質に比べると脂質は同一酸素摂取量での産生できるエネルギーが少ない)

この模擬レースを対象とした別の論文によると、レースパフォーマンス(km)は全身持久力を表すVO2maxとレース中の相対強度を表す(%VVO2max)が高い者ほど優れる傾向にあったとあります。
(Millet, G. Y., Banfi, J. C., Kerherve, H., Morin, J. B., Vincent, L., Estrade, C., Geyssant, A., & Feasson, L. (2011). Physiological and biological factors associated with a 24 h treadmill ultra-marathon performance. Scandinavian journal of medicine & science in sports, 21(1), 54–61. https://doi.org/10.1111/j.1600-0838.2009.01001.x

そして本論文によると、レース中の相対強度が高かったランナーは、レース中のランニングエコノミーが悪化傾向にありました。
これは、80.5km模擬レースを対象とした見解(レース中のエコノミーの悪化を防ぐことが優れたパフォーマンスに繋がる)とは真逆とも言える結果です。
本論文の著者らは、ステップ頻度の増加率(Δステップ頻度)とΔエネルギーコストとの間に正の相関関係(r = 0.54, p = 0.10)があったことを踏まえ、ランニングエコノミーからみた効率の良い走動作よりも、ステップ頻度を高め伸張性収縮による悪影響を減弱するセーフティな走動作の方がパフォーマンスに有益な可能性を示唆しています。

したがって、一言でウルトラマラソンと言っても、約8時間程度で終了するレースと丸一日を要するレースでは、優れたパフォーマンスに繋がる走り方は異なると言えます。

まとめ

24時間走ではランニングエコノミーを保つよりも筋ダメージを防ぐ走りが求められる