夕方以降の運動は睡眠の質と摂取カロリーに影響を与えるのか?

2021年12月12日

はじめに

運動・栄養・休養(睡眠)は健康の三大要素です。
そしてこの三要因は互いに影響し合います

たとえば、就寝前に激しい運動をすると、深部体温が高まったり、交感神経が活性化したりするため、概日リズムが乱れ睡眠の質が下がる場合があります
ただし、2年前に発表されたメタ分析によると、就寝4時間前まで、かつ低・中強度の運動であれば睡眠にネガティブな影響を与えないことも示されています。
(引用:Stutz, J., Eiholzer, R., & Spengler, C. M. (2019). Effects of Evening Exercise on Sleep in Healthy Participants: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports medicine (Auckland, N.Z.), 49(2), 269–287. https://doi.org/10.1007/s40279-018-1015-0)

また、睡眠の質の悪化は翌日の過度なエネルギー摂取や不健康的な食事に繋がりやすいです。
したがって、夜間の運動によって睡眠の質が変化した場合、栄養にも影響を与える場合があります。

今回は若年成人を対象として、普段の就寝時間の2時間前あるいは4時間前に中強度運動をした場合、その後の睡眠や食生活にどういった影響を及ぼすのかを検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Saidi, O., Davenne, D., Lehorgne, C., & Duché, P. (2020). Effects of timing of moderate exercise in the evening on sleep and subsequent dietary intake in lean, young, healthy adults: randomized crossover study. European journal of applied physiology, 120(7), 1551–1562. https://doi.org/10.1007/s00421-020-04386-6

方法
21-25歳の健康的な大学生18名を対象
途中離脱によって最終的な分析対象者は16名(男性8名、女性8名)

下記の3条件のトライアルを実施
・コントロール条件
・就寝4時間前(18時30分~)運動条件
・就寝2時間前(20時30分~)運動条件
※各トライアルは1週間の間隔をあけてランダムに実施

運動条件の運動内容は下記のとおり
時間:60分(W-up10分、主運動50分)
様式:屋外でのランニング
強度:年齢から予測された最大心拍数(220-年齢)の60%
※コントロール条件では、その時間ディスカッションや討論が行われた

運動実施日の朝食・昼食は対象者毎に規定のエネルギー摂取量を摂取
夕食と翌日の朝食は自由食を摂取

評価指標は下記のとおり
睡眠データ:Sense Wear Pro 3 Armbandsを用いて下記の項目を測定
Bedtime(就寝時間)
Wake-up time(起床時間)
Total Time in bed(TTB、全就床時間)
Total sleep time(TST、全睡眠時間)
Sleep latency(睡眠潜時)
WASO(中途覚醒時間)
Number of awakenings > 3 min after sleep onset(NAASO、睡眠開始から3分以上の中途覚醒の回数)
SE(睡眠効率)

深部体温:赤外線の計測器を用いてBed time中の深部体温を評価

食事:夕食と翌日の朝食のエネルギー摂取量、タンパク質、脂質、糖質の摂取量を評価

結果
・Bedtime、Wake-up time、TTB、TST、Sleep latency、深部体温は条件間で有意差なし

・WASOは就寝4時間前運動条件が他の2条件に比べて少ない
・NAASOは就寝4時間前運動条件が就寝2時間前運動条件に比べて少ない
・SEは就寝4時間前運動条件が他の2条件に比べて高い

・コントロール条件でのSEが85%以上の人をGood sleepers、85%未満の人をPoor sleepersとした場合、Poor Sleepersではコントロール条件と比べて運動2条件でWASO、SEが改善傾向
・Poor Sleepersはコントロール条件と比べて就寝4時間前運動条件でWASO、SE改善傾向
・Good sleepersにはそれらの傾向がなかった

・夕食と翌日の朝食のエネルギー摂取量、タンパク質、脂質、糖質の摂取量は有意差がなかった

解説

この論文は、健康的な若年成人を対象とした場合、就寝2時間前までの中強度運動は睡眠の質や運動後の食生活にマイナスの影響を与えないことを示しています。
むしろ、普段の就寝時間の4時間前に運動をすると、就寝後の覚醒時間や覚醒回数が減少し、睡眠効率が高くなるといったポジティブな影響がありました。

ただし、このポジティブな影響は、運動をしなかったコントロール条件での睡眠効率が85%未満の人でのみ確認されました。
したがって、普段の睡眠の質が悪い人は就寝4時間前に中強度運動を実施することで、睡眠の質の向上が期待できるといえます。

運動が睡眠の質に及ぼす影響は、運動の特徴(時間、様式、強度、就寝までの時間)、対象者の特徴(年齢、性別、体力)をはじめとして様々な要因に左右されるため、一概に「運動は睡眠に良い」「運動は睡眠に悪い」とはまとめることはできませんが、少なくとも健康的な若年成人の場合、中強度であれば夜に運動をしてもそこまで負の影響は大きくないのかもしれません。

まとめ

中強度であれば就寝2時間前までの運動は睡眠の質を妨げない可能性