プリーチャーカールの角度とトレーニング効果

はじめに

筋トレによる動的筋力、筋肥大への効果は色々な変数によって影響を受けます。
当サイトでもこれまで様々な変数の影響を調べた論文を紹介してきました。
今回は、関節角度について取り上げます。

コンセントリック局面の開始角度(INITIAL ROM: INI ROM)は、最終角度(FINAL ROM: FIN ROM)に比べると筋長が長くなります。
その特性からINI ROMを含むトレーニング(INI ROM-T)は、最終角度付近でのトレーニング(FIN ROM-T)に比べ、著しい代謝ストレスとInsulin-like growth factors-1(IGF-1)放出を引き起こし、筋肥大に有益な影響を与える可能性があります。
実際に、いくつかの研究がINI ROM-Tの筋肥大効果が優れることを報告しています。

筋肥大のみならず、動的筋力(最大筋力)に対するトレーニング効果も、関節角度と密な関係があります。
一例をあげると、1RMテストの挙上重量は、スティッキングポイント(トレーニングにおいて、負荷の最もかかる角度)が決定要因であり、INI ROM-Tはスティッキングポイントを含むことがほとんどのため、動的筋力を高めるトレーニングとして有益だとされています。

今回紹介する論文では、上腕前部を鍛えるダンベルプリーチャーカールを用いて、INI ROM-TとFIN ROM-Tのトレーニング効果を比較検証しています。

論文概要

出典

Pedrosa, G. F., Simões, M. G., Figueiredo, M. O. C., Lacerda, L. T., Schoenfeld, B. J., Lima, F. V., Chagas, M. H., & Diniz, R. C. R. (2023). Training in the Initial Range of Motion Promotes Greater Muscle Adaptations Than at Final in the Arm Curl. Sports (Basel, Switzerland), 11(2), 39. https://doi.org/10.3390/sports11020039

方法
21名の女性を対象、最終的なデータ分析対象者は19名
ランダムに片腕をINI ROM-T、もう片腕をFIN ROM-Tに割り当て
(Within-participant design)

■トレーニングの詳細
期間:8週間
頻度:3回/週
内容:
肩関節角度を45度で固定した状態での座位でのダンベルプリーチャーカール
Training to failure法
収縮時間:2秒/2秒(短縮性/伸張性)
セット数:4セット(交互)
休息:3分
重量の増減:
最終セットが10回以上→次回のセッションで1kg増加
最終セットが8回以下→次回のセッションで1kg減少

関節角度:
INI ROM-Tは0-68°(下図A2から開始、A1まで)、FIN ROM-Tは68-135°(下図B1から開始、B2まで)で実施

■測定
・Bモード超音波法(筋肥大の指標)
上腕二頭筋の50%・70%位置の筋横断面積(CSA)

・ダンベルプリーチャーカールの1RM
0-135度のフルレンジ

結果
・Bモード超音波法(筋肥大の指標)
上腕二頭筋の70%の位置のCSAはINI ROM-Tの方が顕著に増加(95%信頼区間:0.18-0.34cm)
同50%の位置の増加に群間差なし(95%信頼区間:-0.10-0.34cm)

・ダンベルプリーチャーカールの1RM
INI-ROMの方が顕著に増加(95%信頼区間:0.39-1.06kg)

解説

この論文は、INI ROMを含んだプリーチャーカール(INI ROM-T)が上腕二頭筋の遠位筋肥大と動的筋力の向上に有益なことを示しています。

INI ROM-Tで筋肥大効果が高まるメカニズムについて、論文の著者らは著しい代謝ストレスとIGF-1の放出を挙げていました。
また、動的筋力の向上が優れる理由については、筋肥大効果に加え、動員運動単位数の増加、筋内・筋間の同期の改善、拮抗筋の活性化の減少といった神経性因子も関与している可能性があると述べていました。

先行研究の結果も踏まえると、基本的にはどの種目でも開始角度やスティッキングポイントを含んだ筋トレを行った方がトレーニング効果は高まりそうです。

まとめ

プリーチャーカールは肘関節0度を含むとトレーニング効果が高くなる