COVID-19の重症度と食習慣との関連

2021年8月17日

はじめに

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大以降、世界中で感染リスクや重症化要因を探索する研究が行われています。

当サイトでもこれまでに、健康の三大要素のうち、運動(スポーツ、身体活動量)、休養(睡眠)に着目し、COVID-19重症度との関連を検証した論文を紹介しました。



今回は三大要素の残りの一つである栄養(食事)に着目します。
紹介する論文では、感染リスクの高いクリニック、救急外来、病院でCOVID-19患者の治療にあたる医療従事者を対象として、食習慣とCOVID-19の重症化との関連を検証しています。

論文概要

出典

Kim, H., Rebholz, C. M., Hegde, S., LaFiura, C., Raghavan, M., Lloyd, J. F., … & Seidelmann, S. B. (2021). Plant-based diets, pescatarian diets and COVID-19 severity: a population-based case–control study in six countries. BMJ Nutrition, Prevention & Health, bmjnph-2021.

方法
6か国(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、アメリカ)で行われたウェブベースのアンケート
対象はCOVID-19患者への摂取頻度の高い医師・看護師
調査は2020年7月17日から9月25日に実施
7344人の候補のうち、最終的にCOVID-19への暴露頻度が高いと判断された2884人の医療従事者が対象

アンケートは、人口統計学的情報、過去の病歴、薬、ライフスタイル、COVID-19に関する情報、47項目の食品頻度アンケートから構成

COVID-19に関する調査内容:
COVID-19は、症候性症例、無症候性、コントロール(ネガティブ)に分類

重症度は下記の5つに分類
1) 非常に軽微(very mild):無症候性あるいはほぼ無症候性
2) 軽微(mild):熱が38度未満(治療なし)、呼吸困難や肺炎の画像所見なし
3) 中程度(moderate):発熱、呼吸器症状およびまたは肺炎の画像所見あり
4) 重度(Severe):呼吸困難・頻呼吸、安静時酸素飽和度が93%未満、FiO2が300mmHg以下のいずれかを満たした場合
5) 重大(Critical):呼吸不全、ショック、多臓器不全
→moderate-severeとvery mild-mildに重症度を二分化

症例者はCOVID-19の症状を経験した日数を報告
→14日未満と14日以上に二分化

食習慣に関する調査内容:
COVID-19パンデミック前過去1年間の食習慣を調査
食習慣のパターンは下記の11のパターンで構成
ホールフード、プラントベースド(植物中心)、ケト、ベジタリアン(菜食)、地中海式、ペスカタリアン、パレオダイエット(旧石器時代食)、低脂肪、低炭水化物、高タンパク質、その他

該当者の人数を考慮し、下記の3つの食事パターンを分析対象
プラントベースドダイエット:ホールフード、プラントベースド、ベジタリアンから構成(254名)
プラントベースドあるいはペスカタリアンダイエット:ホールフード、プラントベースド、ベジタリアン、ペスカタリアンから構成(294名)
低炭水化物・高タンパク質ダイエット:低炭水化物、高タンパク質から構成(483名)
※ペスカタリアンとは野菜の他に、乳製品、卵、魚を食べる人(肉類は食べない)

食習慣とCOVID-19の重症度との関連を多変数ロジスティクス回帰モデルを用いて検証(共変数として、年齢、性別、人種/民族性、国、医療従事者の種類、喫煙状況、身体活動レベルなどを考慮)

結果
・COVID-19の症例は568件、コントロール(ネガティブ)は2316件

・568の症例のうち、430がvery mild-mild、138がmoderate-severe

・食習慣とCOVID-19罹患、COVID-19罹患後の持続時間は有意な関連なし

下記は年齢、性別、人種/民族性、国、医療従事者の種類、喫煙状況、身体活動レベルを共変量とした結果
・プラントベースドダイエットに分類された人は、そうでない人に比べるとmoderate-severeのオッズ比が73%低かった(OR=0.27, 95%CI 0.10-0.81)
・プラントベースドあるいはペスカタリアンダイエットに分類された人は、そうでない人に比べるとmoderate-severeのオッズ比が59%低かった(OR=0.41, 95%CI 0.17-0.99)

・低炭水化物・高タンパク質ダイエットに分類された人は、プラントベースドダイエットに分類された人に比べるとmoderate-severeのオッズ比が3倍以上であった(OR=3.86, 95%CI 1.14-13.75)

解説

この論文は海外のメディアで数多く取り上げられており、高い注目を集めています。
得られた結果は、プラントベースドダイエットあるいはペスカタリアンダイエットの実践者はCOVID-19罹患後に重症化する確率が低かったことを示しています。
一方、低炭水化物・高タンパク質ダイエットの実践者は、プラントベースドダイエットの実践者に比べると、重症化する確率が高くなりました

仮にプラントベースドダイエット、ペスカタリアンダイエットがCOVID-19の重症化を防ぐ役割があるとすると、植物性食品に豊富に含まれる植物科学物質(ポリフェノール、カロテノイド)やビタミン・ミネラルの貢献が考えられます。
また、ペスカタリアンダイエットは、イメージとしては「緩めのベジタリアンダイエット」が近く、肉類を摂取しないものの、魚介類は摂取します。
魚介類は、エイコサペンタエン(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の供給源です。
この二つの脂肪酸は、抗炎症作用を有するω-3系の多価不飽和脂肪酸に分類されています。

一方、低炭水化物・高タンパク質ダイエットの実践者は、動物性食品の摂取量が多いことが特徴です。
特に加工された動物性食品は、身体に過度な炎症を引き起こし、健康に悪影響を及ぼす可能性があるとして近年注目されています。
実際、いくつかの疫学研究によって、肉類や乳製品といった動物性食品から多くのエネルギーを摂取している人は、生活習慣病や全死亡率のリスクを高めることが示されています。

ただし、この論文は因果関係を示す研究デザインではない上、欧米人を対象としたデータのため、解釈に注意を要します。

欧米人と比べると日本人は特定のダイエットを厳格に実施している人は少ないため、まずは「野菜をしっかり食べる」「肉のみでなく、大豆や魚介類からもタンパク質を摂取する」程度の心がけが良いのかもしれません。

まとめ

COVID-19の重症化は食習慣と関係するようだ