1日の過ごし方と主観的なストレス、健康度との関連

はじめに

24時間の過ごし方は心身の健康に関係します。

たとえば日本人労働者を対象とした論文によると、平日のSedentary time(すわりがちな時間)や低強度(ゆっくりとした歩行)の時間を睡眠に充てることができれば、メンタルヘルスが不良になる可能性を軽減できることが示唆されています。

またフィンランドの中年成人を対象とした論文によると、Sedentary timeあるいは睡眠時間を低強度あるいは中-高強度の身体活動に充てることで、心血管系の健康度が改善する可能性も示されています。

上記に挙げた論文を含めていくつかの先行研究の見解を踏まえると、1) 適度な睡眠時間、2)十分な身体活動量、3) Sedentary timeが少ない、という三点が心身の健康のためには重要だと考えられます。

今回は、24時間の過ごし方について上記3点の順守状況と主観的なストレス、健康度との関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Kastelic K, Pedišić Ž, Lipovac D, Kastelic N, Chen ST, Šarabon N. Associations of meeting 24-h movement guidelines with stress and self-rated health among adults: is meeting more guidelines associated with greater benefits?. BMC Public Health. 2021;21(1):929. Published 2021 May 17. doi:10.1186/s12889-021-10979-3

方法
スロベニア居住者を対象としたオンライン調査(2019年11月-2020年3月)
2476人の研究参加者同意者のうちデータのスクリーンなどの基準を満たした2333人が分析対象者

24時間の過ごし方の調査:
The Daily Activity Behaviours Questionnaireを利用
先行研究をもとに下記の基準を設定
適度な睡眠時間:7時間00分-9時間59分(成人)、7時間00分-8時間59分(高齢者)
十分な身体活動量:中-高強度の身体活動量が150分/週以上
Sedentary timeが少ない:Sedentary timeが8時間/日未満

主観的な健康度に関する質問と回答の選択肢は下記のとおり
質問:一般的にあなたの現在の健康状態はどのように評価しますか?
回答の選択肢:とても良い、良い、普通、悪い、とても悪い

主観的なストレスに関する質問と回答の選択肢は下記のとおり
質問:あなたはどのぐらいの頻度で緊張したり、ストレスを受けたり、大きなプレッシャーを感じていますか?
回答の選択肢:決してない、とてもまれに、時折、頻繁に、毎日

年齢、性別、BMI、教育レベル、経済的地位、雇用状況、居住地、パートナーの有無、喫煙状況を考慮した序数ロジスティック回帰分析を実施

結果
【分析対象者の特徴】
※数値は平均値
年齢:48歳

女性の比率:74%

BMIの分布:
通常あるいは低体重(25kg/m2未満):52%
過体重(25.0-29.9kg/m2):35%
肥満(30kg/m2以上):13%

主観的な健康度の分布:
とても良い:13%
良い:55%
普通:28%
悪い:3%
とても悪い:0.3%

主観的なストレスの分布:
決してない:1%
とてもまれに:17%
時折:47%
頻繁に:30%
毎日:6%

ガイドラインの順守状況の分布:
一つも満たしていない:7%
十分な身体活動量のみ:9%
Sedentary timeの少なさのみ:8%
適度な睡眠時間のみ:9%
Sedentary timeの少なさ・十分な身体活動量:12%
適度な睡眠時間:十分な身体活動量:16%
適度な睡眠時間:Sedentary timeの少なさ:13%
全部:25%

【24時間の過ごし方と主観的なストレスとの関連】
※一つも満たしていないグループを1.0としたときのオッズ比 (95%信頼区間)
十分な身体活動量のみ:0.90 (0.61-1.32)
Sedentary timeの少なさのみ:0.75 (0.50-1.12)
適度な睡眠時間のみ:0.51 (0.35-0.75)
Sedentary timeの少なさ・十分な身体活動量:0.63 (0.43-0.90)
適度な睡眠時間:十分な身体活動量:0.57 (0.40-0.81)
適度な睡眠時間:Sedentary timeの少なさ:0.48 (0.33-0.69)
全部:0.45 (0.32-0.63)
→ガイドラインの順守数とストレスを感じる頻度との間には直線的な関係あり

【24時間の過ごし方と主観的な健康度との関連】
※一つも満たしていないグループを1.0としたときのオッズ比 (95%信頼区間)
十分な身体活動量のみ:2.24 (1.50-3.36)
Sedentary timeの少なさのみ:1.43 (0.94-2.19)
適度な睡眠時間のみ:1.02 (0.68-1.53)
Sedentary timeの少なさ・十分な身体活動量:2.33 (1.57-3.44)
適度な睡眠時間:十分な身体活動量:1.78 (1.23-2.59)
適度な睡眠時間:Sedentary timeの少なさ:1.37 (0.94-2.00)
全部:2.94 (2.07-4.19)
→ガイドラインの順守数と主観的な健康度との間には直線的な関係あり

解説

オッズ比とは疫学研究で使われる統計指標です。
オッズ比は、ある因子がある病気や状態の原因であると仮定したとき、その因子と病気・状態との間に関連があるか否かを表しています。
今回の論文の場合、ガイドラインの順守状況と主観的なストレスとの間のオッズ比が低いほど、またガイドラインの順守状況と主観的な健康度との間のオッズ比が高いほど、関連性が高いことを意味しています。
また、通常は95%信頼区間とともに表し、95%信頼区間が1.0をまたがない場合、関連性が有意であるという解釈になります。

この論文の結果は、主観的なストレス・健康度ともに、24時間の過ごし方のガイドラインの順守数が増えると望ましい傾向(ストレスを感じる頻度が少ない、健康度が高い)があったことを示しています。

主観的なストレスについては、適度な睡眠時間のみをを満たしたいた場合でオッズ比は有意でしたが、十分な身体活動量のみ、あるいはSedentary timeの少なさのみでは有意な関連がありませんでした。
したがって、主観的なストレスは、特に適度な睡眠時間が重要であると言えます。

一方、主観的な健康度については、十分な身体活動量のみを満たしたいた場合でもオッズ比は有意でしたが、適度な睡眠時間のみ、あるいはSedentary timeの少なさのみでは有意な関連がありませんでした。また、適度な睡眠時間とSedentary timeの二つを満たした場合でも有意な関連がありませんでした。
したがって、主観的な健康度は、特に十分な身体活動量が重要であると言えます。

なお、当サイトで紹介している他の疫学研究同様、この論文は対象者の特性(性別のバラツキなど集団を代表としたサンプルではない)、24時間の過ごし方やアウトカムの調査方法がアンケートによるものなどの限界があります。
しかし、この論文の結果は、自分やクライアントが何を求めているのか(改善したいのか)を把握した上で、24時間の過ごし方の提案を最適化させていくために参考になる資料になりえます。

まとめ

主観的に感じるストレスの頻度を減らしたい場合は適度な睡眠時間の確保を、主観的な健康度を高めたい場合は十分な身体活動量を獲得すべき