三大栄養素の摂取比率と不眠症症状との関係

はじめに

良質な睡眠は健康的に過ごすために最優先すべき事項です。
睡眠の質は、性別、年齢、心理的状態、身体活動量に加え、食生活の影響を受けます。
当サイトではこれまでに、食生活と睡眠の質との関係を検証した論文を紹介してきました。




今回は日本人の労働者を対象として、タンパク質・脂質・糖質の摂取比率と不眠症症状との関連を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Tanaka, E., Yatsuya, H., Uemura, M., Murata, C., Otsuka, R., Toyoshima, H., Tamakoshi, K., Sasaki, S., Kawaguchi, L., & Aoyama, A. (2013). Associations of protein, fat, and carbohydrate intakes with insomnia symptoms among middle-aged Japanese workers. Journal of epidemiology, 23(2), 132–138. https://doi.org/10.2188/jea.je20120101

方法
愛知県の労働者を対象とした心血管疾患に関するコホート研究のデータを利用
このコホート研究は2002年の時点で35-66歳の公務員(事務職に従事)を対象としていた
本論文では、2002年に実施したベースライン調査のデータを利用
シフト業務者やデータの欠損者を除いた4835名を分析対象

不眠症の症状は質問紙を用いて、下記の3つを定量
Difficulty initiating asleep(DIS: 睡眠を開始するのが難しい)
Difficulty maintaining sleep(DMS: 睡眠を維持するのが難しい)
Poor quality of sleep(PQS: 睡眠の質が悪い)

食生活は過去1か月の状況は簡易型自記式食事歴法質問票にて定量

共変量として、BMI、精神的ウェルビーイング、運動習慣、アルコール摂取量、コーヒー摂取量、既往歴を定量

結果
・タンパク質の摂取比率が16%未満のグループは16%以上のグループに比べてDIS、PQSのリスクが高く、DMSのリスクが低かった

・糖質の摂取比率が50%未満のグループは、50%以上のグループに比べてDMSのリスクが高かった

解説

この論文は、1) タンパク質の摂取比率が低い人は寝つきや睡眠の質が悪く、2) タンパク質の摂取比率が高い人は睡眠を維持するのを困難に感じている(真夜中に頻繁に起きる)、3) 糖質の摂取比率が低い人は睡眠を維持するのを困難に感じている、ことを示しました。

タンパク質についてです。
タンパク質が睡眠の質に及ぼす影響はタンパク質を構成するアミノ酸の組成に依存します。
例えば、トリプトファンは睡眠を促すセロトニンの前駆体のため、トリプトファンが豊富な乳製品は睡眠を促進する可能性があります。
一方、BCAAとして知られるバリン、ロイシン、イソロイシンは大分子中世アミノ酸(LNAA)に対するトリプトファンの比率(Trp:LNAA)を下げるため、睡眠を妨げる可能性があります。
その他、この論文ではチロシンについても言及がありました。
チロシンはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの前駆体であり、覚醒作用があるとされています。

糖質についてです。
この論文では、糖質の摂取比率が低い人で睡眠を維持することを困難に感じる傾向にありました。
糖質が睡眠に与える影響は、糖質の質(単純糖質、複合糖質)に依存します。
また、糖質摂取後の血糖値の上昇は、インスリン濃度の増加をもたらし、それがTrp:LNAAを高めることに寄与する可能性があります。
糖質が睡眠に及ぼす影響についてはインスリン抵抗性を有することの多い肥満者を対象とした場合、異なる結果になる可能性もあります。

以上を踏まえると、摂取比率のみで睡眠を最適化することは難しく、タンパク質や糖質の内容に着目する必要があると言えます。

まとめ

タンパク質と糖質の摂取比率は睡眠の質に影響する