スクワットの深さは高齢者のトレーニング効果に影響しない可能性

はじめに

スクワットは大腿四頭筋、大殿筋、ハムストリングスといった下半身の大きな筋肉を鍛えることができる上、歩行や階段昇降、椅子からの立ち座りといった日常生活関連動作の遂行能力を高められる種目です。

健常成人のスクワットトレーニングではバーベルやダンベルといった外的な負荷を用いることが多いです。
これは、自体重(自重)のスクワットでは筋肉に十分な刺激を与えられないからです。
しかし、加齢や不活動に伴い筋肉量や筋力が低下していることの多い高齢者の場合、自重スクワットでもトレーニング効果が得られることもあります。

自重スクワットのトレーニング効果を左右する要因としては、反復回数、セット数、1回当たりの収縮時間といった変数の他、しゃがむ深さが挙げられます。

一般的に浅い(膝関節の屈曲角度が少ない)スクワットは、深いスクワットと比べると大腿四頭筋の筋活動が小さいため、膝関節伸展筋力へのトレーニング効果も減弱すると言われています。
(その他、大殿筋やハムストリングスに対するトレーニング効果も減弱しますが、今回は省略)

しかし、先行研究では若年成人を対象としたものが多く、高齢者を対象とした場合、自重スクワットの深さがトレーニング効果に及ぼす影響についてははっきりとした見解が出ていませんでした。

そこで今回は高齢者を対象として、浅いスクワットと深いスクワットを実施した場合のトレーニング効果を比較した論文を紹介します。

論文概要

出典

Yoshiko, A., & Watanabe, K. (2021). Impact of home-based squat training with two-depths on lower limb muscle parameters and physical functional tests in older adults. Scientific reports, 11(1), 6855. https://doi.org/10.1038/s41598-021-86030-7

方法
日常生活動作を支障なく行える、医師から運動、スポーツ活動を制限されていない、といった一定の基準を満たしている65歳以上の高齢者16名を対象
年齢や性別、BMIを考慮した上でランダムに下記の2群に分類
・Shallow knee bended squat(SS)群8名→浅いスクワット
・Deep Knee bended squat (DS)群8名→深いスクワット

トレーニング内容は下記のとおり
期間:12週間
頻度:3回/週
回数:35回(約6分間で終了)
セット数:4セット

トレーニングは各対象者の自宅で行った
SS群は40cmの椅子と20cmのクッションを利用
DS群は40cmの椅子のみを利用
いずれも臀部が椅子やクッションに触れるまでしゃがんだ後、座ることなく伸展動作を行った

トレーニング実験開始の前、4週間後、8週間後、12週間後に下記の項目を測定

・膝関節伸展最大筋力:膝関節屈曲角度が30度、70度、110度のときの等尺性最大収縮時のトルクを測定

・筋厚(超音波法):大腿直筋、外側広筋、中間広筋(前側)、中間広筋(外側)

・5m歩行スピード:自由歩行条件、早歩き条件

・筋力:推定1RMレッグプレス、30秒椅子立ち上がりテスト

結果
・膝関節伸展最大筋力:両群ともに変化なし

・筋厚:両群ともに変化なし

・5m歩行スピード:両群ともに変化なし

・推定1RMレッグプレス:実験開始前に比べてSS群で4週、8週、12週、DS群で4週、12週で増加

・30秒椅子立ち上がりテスト:実験開始前に比べて両群ともに8週、12週間で増加

解説

この論文は、高齢者が12週間にわたり自宅でのスクワットトレーニングを実施したところ、しゃがむ深さに関わらず、日常生活遂行能力に関する指標(推定1RMレッグプレス、30秒椅子立ち上がりテスト)が向上したことを示しています。
一方で膝関節伸展最大筋力や筋肥大の指標である筋厚、5m歩行スピードは両群ともにトレーニング効果がありませんでした

膝関節伸展最大筋力には効果がなかったのにも関わらず、推定1RMレッグプレスや30秒立ち上がりテストの改善が認められた理由としては、スクワットトレーニングよって股関節伸展筋力(大殿筋やハムストリングス)が向上した可能性が考えられます。
ただし、一般的に屈曲角度の浅いスクワットでは股関節伸展動作の主働筋である大殿筋の筋活動は高くならないとされていますが、この論文ではSS群でも改善が認められていました。

この研究では、群×時間の交互作用を検証する統計処理が行われていないため、両群のトレーニング効果の違いを言及することに限界があります。
しかし、そもそも膝関節伸展最大筋力や大腿四頭筋の筋厚への効果が認められていないことを踏まえると、高齢者であっても日常生活動作に支障がない人たちの場合、自重のみのスクワットでは得られる効果に限界があるのかもしれません。

また、この論文ではトレーニング記録の記入を指示し、両群ともに週当たり平均12セットのトレーニングをしていることを確認しています。
しかし、各対象者の自宅でトレーニングを実施したため、実際にどれだけ正しい動作で行えていたのかは分かりません。
こういったトレーニングの質の部分もトレーニング効果に影響した可能性も否定できません。

まとめ

高齢者の自重スクワットトレーニングはしゃがむ深さに関わらず、脚伸展や立ち上がりテストのスコアが改善する