サイクリストの数日にわたるトレーニングの回復とパフォーマンスに水風呂(CWI)が与える影響

はじめに

以前、競技力の高い競泳選手たちを対象として、日々のトレーニング後の10分間の水風呂(CWI)が自律神経系や主観的回復度(特に睡眠の質)からみたリカバリーを促進することを示唆した論文を紹介しました。

こういった具体策は、細かな条件(例えば競技種目、競技レベル、トレーニング負荷、回復方策の実施タイミングや時間など)によって、その振る舞いが大きく異なります。
したがって、一つの論文を拡大解釈することは望ましくなく、色々なエビデンスをもとに、慎重に解釈していく姿勢が求められます。

今回は、サイクリストを対象として、CWIがサイクリングパフォーマンスや睡眠、自律神経、主観的回復度に与える影響を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Stanley, J., Peake, J. M., & Buchheit, M. (2013). Consecutive days of cold water immersion: effects on cycling performance and heart rate variability. European journal of applied physiology, 113(2), 371–384. https://doi.org/10.1007/s00421-012-2445-2

方法
11名の男性持久系サイクリストを対象
実験期間中のトレーニング量はおよそ10-15時間/週

ランダム化クロスオーバーデザイン
条件はCWIとパッシブリカバリーの2条件
研究期間は学習効果などの影響を考慮し、慣れ施行などを含む計5週間で構成
条件間で同様の生理学的状態で各実験を開始できるようにするために、研究期間を通じて食事やトレーニング負荷を揃えるように指示

本試行では、3日間の実験室トレーニングとその後の2日間は回復トレーニングを実施
各条件の前6日間は軽負荷のトレーニングを実施

■実験室トレーニング
1日あたり120分のサイクリング
(66回の最大スプリント、9分間のタイムトライアル[TT]を含む)
トレーニングは午後5時30分-6時に開始

■介入
120分のサイクリングトレーニングの15分後にCWIもしくはパッシブリカバリーを実施
CWIのプロトコル
時間:5分
水温:平均10.1度
姿勢:立位
深さ:全身(首から上を除く)

パッシブリカバリーは同時間を同姿勢で過ごしたが、浸水はなし

■評価指標
・自律神経系
起床時、トレーニング後、介入後、睡眠時にHRV(Ln rMSSD)を測定
加えて睡眠潜時も計測

・主観的回復度系
就寝前にTiredness(倦怠感)を調査
起床時に一般的疲労、メンタルリカバリー、脚の筋痛を調査

結果
■実験室トレーニングのパフォーマンス・生理学指標
CWIはパッシブリカバリーと比べて、スプリントの平均パワーとケイデンス、トレーニング全体の平均HRをより維持できていた

タイムトライアルのパフォーマンスは群間で明確な差なし

■睡眠潜時
群間で明確な差なし

■自律神経系
トレーニング1日目
パッシブリカバリーと比べて、CWI直後のHRVは高かった
また、睡眠時のHRVはパッシブリカバリーと比べて、CWIで低かった

1日目から3日目にかけての睡眠時のHRV、1日目から6日目にかけての起床時のHRVには明確な群間差なし

■主観的回復度系
・脚の筋痛
パッシブリカバリーと比べて、CWIで低かった

その他の指標は明確な群間差なし

解説

この論文は、パッシブリカバリーと比べて、CWIは3日間のトレーニング中のスプリントパフォーマンスが良好に維持できることを報告しました。
また、この効果は、睡眠時のHRVが低く(=副交感神経の活性度が低い)、睡眠潜時や起床時のHRVには影響がなかったのにも関わらず認められました。

結果を詳しくみると、3日間の120分のトレーニング中の平均HRVはCWI群では維持されていたのに対し、パッシブリカバリーでは低下していました。
論文の著者らは、これに加えて、トレーニング中の主観的強度がほぼ同じだったことと、スプリントパフォーマンスがCWI群で優れていたことを踏まえ、CWI条件においてサイクリストたちが高い運動強度を維持していたと述べていました。

競泳選手たちを対象とした以前の研究とは異なり、この研究では、翌日起床時の自律神経系のコンディションは群間で差が見られませんでした。
加えて、CWIは睡眠潜時にも影響を与えませんでした。
これらの結果は、サイクリストがベッドに入る頃(CWI実施から約.5時間後)には、CWIの影響がほぼなくなってしまっていたことを示唆しています。
ただし、CWI群の方が3日間のトレーニングの負荷を高く維持できていたことを踏まえると、トレーニング強度の影響も受けた可能性もありそうです。
実際、論文の著者らは、次のように考察しています。

これらの知見を総合すると、心臓副交感神経活動の回復に対するCWIの効果は、時間依存的(例えば、運動直後と夜間の測定)である上、運動のパフォーマンスにも依存する可能性が示唆される。
今回観察された夜間の副交感神経活動の低下と入眠潜時は変化していないことから、アスリートはCWIを繰り返すことでよりハードなトレーニングを行うことができるものの、睡眠の質を促進するためには他の回復介入(例えば、リラクゼーション、特定のスナックなど)が依然として必要である可能性が示唆された。

ただし、結果をよくみてみると、両群ともに起床時のHRVは1日目と比べても減少していないので、そもそもこのレベルのアスリートにとって、自律神経系のコンディションを落とすまでのトレーニング負荷になっておらず、そのことが結果に影響している可能性もありそうです。

まとめ

トレーニング後の5分間の水風呂は3日間にわたるトレーニング負荷の維持には貢献するが、必ずしも翌日の自律神経系のコンディションに効果があるわけではない