早死にリスク軽減に適した睡眠時間は7時間

はじめに

コホート研究とは、特定の集団を追跡し、特定の暴露因子と疾病の罹患率や死亡率との関連を検証する方法のことを言います。
通常、コホート研究では因果関係は明らかにできませんが、どのような特徴を持つ人が疾病に罹患しやすいのか、早死にしやすいのかといった傾向を把握するのに適しています。
当サイトでもこれまでに、主に全死亡率をアウトカムとしたコホート研究を紹介してきました。




今回紹介する論文では、東アジア4カ国(日本、中国、シンガポール、韓国)を対象として、睡眠時間と全死亡率、心血管疾患死亡率、癌死亡率との関連を検証しています。
このうち、今回は主に全死亡率の結果を紹介します。

論文概要

出典

Svensson, T., Saito, E., Svensson, A. K., Melander, O., Orho-Melander, M., Mimura, M., Rahman, S., Sawada, N., Koh, W. P., Shu, X. O., Tsuji, I., Kanemura, S., Park, S. K., Nagata, C., Tsugane, S., Cai, H., Yuan, J. M., Matsuyama, S., Sugawara, Y., Wada, K., … Inoue, M. (2021). Association of Sleep Duration With All- and Major-Cause Mortality Among Adults in Japan, China, Singapore, and Korea. JAMA network open, 4(9), e2122837. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.22837

方法
日本、中国、シンガポール、韓国の4カ国、合計9つのコホート研究のデータを利用
450532人のうち、データの欠如、18歳未満などの除外によって分析対象者は322721人

暴露因子は自己申告の睡眠時間
1つのコホートを除き、ベースラインのデータを利用
先行研究のエビデンスをもとに7時間を基準とし、5時間未満、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上の6カテゴリーに分類

睡眠時間と全死亡率、心血管疾患死亡率、癌死亡率との関連をBMI、喫煙習慣、飲酒習慣、身体活動量、糖尿病や高血圧の既往歴、閉経状態(女性のみ)の影響を考慮した上でCox比例ハザードモデルにて検証

結果
■サンプルの特性
年齢:平均54.5歳
女性の割合:55.3%
追跡期間:男性が平均14年、女性が平均13.4年
睡眠時間の最頻値:男性が8時間(35.1%)、女性が7時間(33.8%)
追跡期間中に19419人の男性、13768人の女性が死亡

■全死亡率と睡眠時間との関係
男女ともに7時間が最もハザード比が低くなるJ時型
ただし、男性の6時間のみ7時間との間に有意差なし

最も全死亡率のリスクが高まるのは男女ともに10時間以上であった

7時間を1.0とした際のハザード比は下記のとおり
男性:1.34(95%信頼区間:1.26-1.44)
女性:1.48(95%信頼区間:1.36-1.61)

解説

この論文は、東アジアで行われたコホート研究のデータをもとに、睡眠時間と全死亡率との関連を検証しています。
睡眠時間の定量方法が自己申告制という点に研究の限界がありますが、人数や追跡期間などを踏まえると、非常に意義のある論文です。
また、日本人も含まれていることから、日本人への啓蒙活動にも引用しやすい論文です。
実際、論文が発表されて数カ月しか経過していないのも関わらず、Web上での論文の影響度を示すAlmetric Attention Scoreは既に600を超えています(2021年10月31日現在)。

得られた結果は、男女ともに睡眠時間は死亡率と密接に関連し、短い場合も高まるものの、長すぎる場合(10時間以上)に最も高まることを示しています。

コホート研究という特性上、因果関係を説明することはできません。

論文の著者らは短い睡眠時間は食欲を抑えるレプチンの分泌を減らす一方で、食欲を亢進させるグレリンの分泌が高まるというエビデンスをもとに、短眠では肥満や糖尿病のリスクが高まる旨を指摘していました。
また、長いすぎる睡眠時間の弊害については、その時点で既に基礎疾患などを有しているなどの事情があり、交絡因子や併存疾患が影響している可能性を指摘していました。

個人的には、睡眠時間が長すぎる場合、1日の身体活動量が減りやすい事情が影響している気がしています。

まとめ

早期死亡リスクを減らすための適切な睡眠時間は7時間