時間のない市民ランナーは閾値型のトレーニングプランも有効

はじめに

持久系アスリートにとって、トレーニング強度の配分を最適化することは重要です。
多くの研究では、トレーニング時間のうち低強度が70%以上を占め、中強度はなるべく少なく、高強度は中強度以上に多くするアプローチが有効だとされています。
このトレーニングをPolarized Training(分極型トレーニング)と呼びます。

Polarized Trainingが優れたパフォーマンス向上を引き出すメカニズムは解明されていないものの、自律神経や内分泌応答からみた過度なストレスを最小限にすることで、オーバートレーニングを回避しやすい点がメリットとして挙げられます。
このメリットは、特にトレーニング時間の長いエリート選手には大切になってきます。

一方、仕事や家事など、人生のその他のタスクとの兼ね合いによって、十分なトレーニング時間が確保できない一般アスリートもいます。

今回紹介する論文では、レクリエーショナルランナー(市民ランナー)を対象として、トレーニング負荷が均等なものの、トレーニング時間が異なる2つのトレーニング戦略の効果を比較しています。
この論文で採用されたトレーニング戦略は、Polarized TrainingとThreshold Training(閾値トレーニング、本文ではFocused Training)でした。
Threshold Trainingは低強度の比率を減らし、中強度の比率を高めるトレーニング戦略です。

論文概要

出典

Festa, L., Tarperi, C., Skroce, K., La Torre, A., & Schena, F. (2020). Effects of Different Training Intensity Distribution in Recreational Runners. Frontiers in sports and active living, 1, 70. https://doi.org/10.3389/fspor.2019.00070

方法
43名の市民ランナーを対象(最終的なデータ分析対象者は各群19名の合計38名)
対象者は平均6.4年のトレーニング経験を有し、実験参加前のトレーニング量は平均3.2時間であった

対象者はランダムに下記の2群に割り当てられた
Polarized Training(PT):低強度77:中強度3:高強度20
Threshold Training(TT):低強度40:中強度50:高強度10

トレーニング実験の期間は2週間の導入期後に3週(2週強化-1週回復)のサイクルを2回繰り返す合計8週間で構成
PTは週4回のセッションのうち、2回が高強度のインターバル・レペティション、1回が中強度、1回がイージーラン
TTは週3回のセッションの全てが中強度のレペティション

トレーニング負荷の定量は心拍数を用いたTime in Zone法によって実施
トレッドミルテストの換気性閾値未満をzone1、換気性閾値から呼吸性代償開始閾値までをzone2、それ以上をzone3と定義
トレーニング負荷(TRIMP)は、時間に重み付けされた強度(zone1:1、zone2:2、zone3:3)を乗算して算出

トレーニング実験の前後にトレッドミルテスト、2km全力走、レッグプレスの推定1RMテスト、ジャンプテスト(スクワットジャンプ、垂直跳び)を実施

結果
数値は平均値
■8週間合計のトレーニング時間
PT:29.9時間
TT:24.8時間
群間の有意差あり

■週間のTRIMP
PT:2464
TT:2558
群間の有意差なし

両群ともに、体脂肪率、最大酸素摂取量の走行速度、換気性閾値の走行速度、呼吸性代償開始閾値の走行速度、ランニングエコノミー(酸素摂取量)、2km全力走のパフォーマンスが改善
(群間の有意差なし)

解説

この論文は、市民ランナーを対象として、Polarized TrainingとThreshold Trainingの効果を比較した結果、同じぐらいトレーニング効果が得られることを明らかにしました。

論文の著者らは、Polarized Trainingのメリットは、トレーニング時間が長時間の場合に受けられやすく、週当たりのトレーニング時間が3-5時間程度の市民ランナーの場合には、トレーニングによってオーバートレーニングになる可能性が低いと考察していました。
そして、その理由によって、低強度の配分を減らし、中強度の配分を増やすThreshold Trainingでも、トレーニング負荷に耐えられたと考察しています。

この論文では、トレーニング負荷を統一したこともあり、トレーニング時間はThreshold Trainingで短くなりました。
この結果を踏まえると、トレーニングに費やせる時間の短い持久系スポーツの愛好家は、Polarized TrainingよりもThreshold Trainingの方が効率的なアプローチになる可能性もありそうです。

まとめ

忙しくて時間が確保できない持久系スポーツの愛好家は、Threshold Trainingもあり