48時間走に向けたトレーニングと身体組成の変化

はじめに

フルマラソン(42.195km)を超える距離を要する走種目は、ウルトラマラソンと総称されます。

一口にウルトラマラソンと言っても、下記のように様々な種目があります。
50km、100km、100mile、200mile、6時間、12時間、24時間、48時間、6日間

今回は6-24時間走の出場経験を有する男性ランナーを対象に48時間走大会前の練習内容と身体組成の変化を詳細に報告したケーススタディを紹介します。

論文概要

出典

Nikolaidis, P. T., Knechtle, C., Ramirez-Campillo, R., Vancini, R. L., Rosemann, T., & Knechtle, B. (2019). Training and Body Composition during Preparation for a 48-Hour Ultra-Marathon Race: A Case Study of a Master Athlete. International journal of environmental research and public health, 16(6), 903. https://doi.org/10.3390/ijerph16060903

方法
当時53歳の男性ランナーを対象(身長:177cm、体重:80.1kg、BMI:25.6)
対象ランナーは夏にアイアンマントライアスロンに取り組み、その以外の時期は主にランニングを行うスタイル
対象ランナーは、1998年から2017年に下に示した時間走出場経験あり
6時間走:5回、12時間走:14回、24時間走:6回
2018年は48時間走への出場を計画

■48時間走へ向けたトレーニングプログラム
基本的には24時間走に向けたものと同じ
レース前の3か月間、ペースを変えることなく、トレーニング量を110~150km/週に増やす

朝は電車通勤、夕方は自宅まで走って帰宅(~14km)
レースが近づくと朝も走る上、土日も類似のトレーニングを実施
ただし、夏シーズンの最後のトライアスロン後、数週間のリカバリーをとった後に本格的なトレーニングを再開、再開直後は1回の走行距離が約7kmに限定

■計測
日内変動を避けるために、夕食約3時間後にあたる午後9-10時に測定
計測項目は下記のとおり
・体重
・体脂肪率(インピーダンス法)
・BMI
・皮下脂肪厚(8部位、キャリパー法)
・周径囲

結果
【トレーニング】
・1回のトレーニングの走行距離は6.7km-14.5km
→最初の11回のセッションは7km未満、以降は常に約14kmで一定

・1回のトレーニングの時間は51分-1時間56分
→最初の11回のセッションは短く、以降はほぼ一定

・1回のトレーニングのペースは8分27秒/km-7分03秒/km
→最初の11回のセッションは徐々に早くなり、その後50-60回まで徐々に遅くなり、大会直前でまた早くなった

【身体組成】
・体重
30回のセッションまでは徐々に減少、その後60回まで徐々に増加、最後にまた減少

・除脂肪量
30回のセッションまでは徐々に減少、その後60回まで徐々に増加、最後にまた減少

・体脂肪率
30回のセッションまでは徐々に減少、その後は最後まで徐々に増加

・周径囲
30回のセッションまでは徐々に減少、その後は大きな変化なし

・皮下脂肪厚
8部位合計でみると、30回のセッションまでは徐々に減少、その後は大きな変化なし
ただし、部位別に傾向が異なり、胸部や肩甲下は顕著な変化なし

解説

ケーススタディが査読あり学術雑誌に掲載されるレベルの評価を受けるには、いくつか求められる条件があります。
例えば、対象が五輪メダリストのようなワールドクラスアスリートの場合、評価を得やすい傾向にあります。
また、非常に高頻度で身体組成を計測した今回のケーススタディのように、人数が確保された研究では実施できないような方法論を採用しているケーススタディも取り上げられやすいように感じます。

48時間走に挑むランナーであっても、毎回のトレーニングで走る距離が15km未満であったことは意外です。
また、トレーニングは常に低強度(ただし、48時間走の強度に近い)で行われ、高強度のセッションは皆無でした。
このトレーニング内容だけをみると、時間さえ確保できれば、取り組めるランナーは多そうです。
ただし、対象ランナーは過去のレース経験が豊富だった上、48時間走に向けたトレーニングを始める前にはアイアンマントライアスロンにも出場していています。
したがって、そういった積み重ねがあった上でのトレーニング内容という点は忘れてはいけないポイントです。

皮下脂肪厚の変化に部位差が認められたことは興味深い結果です。
著者らは、活動筋(ランニングの場合、大腿、下腿)あるいは皮下脂肪厚が多い部位(腹部、腸骨稜)で減りやすい可能性があったと考察しています。

なお、ケーススタディでは身体組成の変化に影響するエネルギー摂取量をはじめとする栄養摂取状況は調査していません。
ただし、対象ランナーの食習慣は変化がなかったと記載されています。

まとめ

あるウルトラマラソンランナーの48時間走に向けたトレーニングは、身体組成を変化させた