身体組成が睡眠に及ぼす影響はSedentary Behaviorが仲介する

2021年9月21日

はじめに

健康な毎日を送るために、良質な睡眠を確保することは大事です。
当サイトでも、これまでに睡眠に関する論文を紹介してきました。

厚生労働省の『生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット』には、睡眠不足と生活習慣病との関係について次のように記載されています。

慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています。一例を挙げれば、健康な人でも一日10時間たっぷりと眠った日に比較して、寝不足(4時間睡眠)をたった二日間続けただけで食欲を抑えるホルモンであるレプチン分泌は減少し、逆に食欲を高めるホルモンであるグレリン分泌が亢進するため、食欲が増大することが分かっています。ごくわずかの寝不足によって私たちの食行動までも影響を受けるのです。実際に慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。

(引用:三島 和夫. 睡眠と生活習慣病との深い関係. e-ヘルスネット. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html 厚生労働省. (2021年閲覧))

このように、睡眠は肥満を原因として発症する生活習慣病とも密接な関係があります
その一方で、どのような要因がどういったメカニズムで睡眠に影響を与えているのかについては、分かっていないことも多くあります。

今回は、若年成人を対象として身体組成と睡眠との関係を詳細に検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Carneiro-Barrera, A., Amaro-Gahete, F. J., Acosta, F. M., & Ruiz, J. R. (2020). Body Composition Impact on Sleep in Young Adults: The Mediating Role of Sedentariness, Physical Activity, and Diet. Journal of clinical medicine, 9(5), 1560. https://doi.org/10.3390/jcm9051560

方法
18-25歳の187人(女性121人)の若年成人を対象
対象者のBMIは18-35の範囲

主な評価項目は下記のとおり
形態・身体組成(二重エネルギーX線吸収測定法などで測定):BMI、ウエストヒップ比、ウエスト身長比、除脂肪体重、脂肪量、内蔵脂肪量

身体活動レベル(加速度計で測定):Sedentary time(座りがちな生活時間)、Light physical activity time(低強度身体活動時間)、Moderate physical activity time(中強度身体活動時間)、Vigorous physical activity time(高強度身体活動時間)、Moderate-vigorous physical activity time(中強度―高強度身体活動時間)

食事内容(24時間思い出し法で測定):総エネルギー摂取量、タンパク質・脂質・糖質の摂取カロリー

睡眠(加速度計とPittsburgh Sleep Quality Index尺度で測定):総睡眠時間、睡眠効率(就寝時間に対する睡眠時間の割合)、入眠後の覚醒時間、睡眠の質

結果
・対象者の24.7%が過体重(BMIが25-29.9)、15.2%が肥満(BMIが30以上)

・BMIと総睡眠時間との間に負の関係
→BMIが高い人ほど総睡眠時間が短い傾向

・Sedentary timeは、男性においてBMIと総睡眠時間との関係を仲介
→BMIの高い男性はSedentary timeが多いと睡眠時間が短縮傾向

解説

この論文の重要な知見は、若年男性において座りがちな生活時間は、高いBMIと短い睡眠時間との関係を仲介する要因であった、という結果です。

なお、上記では詳細な結果を引用していませんが、BMIと総睡眠時間との関係以外にも様々な指標で有意な関係が認められています。

近年、Sedentary timeが肥満や睡眠不足と関係することが報告されており、今回の結果もそれを支持するものでした。

一方、仲介因子としてのSedentary timeの影響には性差があり、女性では影響が軽微でした。
この原因について論文の著者らは、女性の場合、心理的なストレスの影響が強くなる可能性を指摘していました。

健康の三大要素である『睡眠』『食事』『運動』は、完全には独立しておらず相互に依存し合うものです。
最終的に三大要素の全てを高めることが大事には違いないですが、健康度を高めようと思い立ったときは、一番取り組みやすい要素にアプローチするのが望ましいと思います。

この論文を参考にするのであれば、座りがちな生活時間を減少(これに伴い運動・身体活動レベルが高まることが多い)することで、睡眠改善が狙えると言えます。

まとめ

BMIが高い若年男性は座りがちな生活時間が増えると睡眠時間が短縮する