心血管系の健康度には座りがちな時間を減らすことが大切

はじめに

座りがちな行動(Sedentary Behavior)とは、睡眠時以外で座位あるいは横たわっているといった身体活動強度が低い活動のことであり、具体的には安静時の消費エネルギー(カロリー)の1.5倍未満の消費エネルギーの行動が相当します。

以前、日本人労働者を対象として、平日の座りがちな時間を睡眠に充てることで精神衛生に良い影響を与える可能性を示した論文を紹介しました。

また、フィンランドで行われた研究によると、座りがちな時間あるいは睡眠時間を低強度あるいは中・高強度の身体活動の時間に充てることで、心血管系の健康度が改善する可能性も示されています。

今回は、日本人を対象として、座りがちな時間と心血管代謝系健康度との関連、座りがちな時間を低強度あるいは中・高強度の身体活動時間に充てることの利益を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Kinoshita, K., Ozato, N., Yamaguchi, T., Sudo, M., Yamashiro, Y., Mori, K., Ishida, M., Katsuragi, Y., Sasai, H., Yasukawa, T., Murashita, K., Nakaji, S., & Ihara, K. (2022). Association of sedentary behaviour and physical activity with cardiometabolic health in Japanese adults. Scientific reports, 12(1), 2262. https://doi.org/10.1038/s41598-022-05302-y

方法
青森県弘前市いわき地方在住の成人を対象とした健康プロジェクトの集団を対象
本研究は、2018年5月27日から6月5日に1056人を対象に実施された健康診断で得られたデータをもとに分析
データが不完全な者などを除外した結果、最終的な分析対象者は758人(20-88歳、男性:291人、女性:467人)

測定・評価項目は下記のとおり
■身体活動量
加速度計のデータを利用
加速度計は水泳や入浴中以外の起きている時間に着用
10日間のうち7日以上にわたり10時間/日以上のデータがある者を分析
座りがちな行動(1.5メッツ以下)、低強度(1.6-2.9メッツ)、中・高強度(3メッツ以上)ごとに分析

■心血管代謝系の危険因子
内臓脂肪は生体インピーダンス法内臓脂肪計で測定
総体重に対する筋肉量(相対筋量)をインピーダンス分析機で測定
空腹時絶食状態の血糖値、インスリン、トリグリセリド、HDL-C、LDL-Cを測定

メタボリックシンドロームの基準は、内臓脂肪が100cm以上かつ高血圧(収縮期血圧:130mmhg以上、拡張期血圧85mmhg以上、または抗高血圧薬の服用)、高血糖(空腹時血糖値110mg/dl以上または抗糖尿病薬の服用)、脂質異常症(トリグリセリド150mg/dl以上、HDL-C40mg/dl未満、または抗高脂血症薬の利用)のうち2つ以上を満たしている場合
内臓脂肪や血圧、空腹時血糖値、トリグリセリド、HDL-C(標準化)の合計値をMetSスコアとして算出

結果
座りがちな時間の平均は、10.9時間/日、計測総時間の67.9%を占めていた

座りがちな時間が多いと、内臓脂肪量やHOMA-IR、トリグリセリドが高い(多い)ことや、相対筋量、HDL-Cが低いことに関連

座りがちな時間によって対象者を4グループに分けた結果、最も短いグループ(10時/日未満)と比べると最も長いグループ(11.8時/日以上)では、メタボリックシンドローム(オッズ比:2.52)、肥満(オッズ比:2.79)、脂質異常症(オッズ比:1.81)のオッズ比が高い

ある行動を等量の別行動に置き換えたときの目的変数への影響を推定する手法であるIsotemporal substitution modelによると、座りがちな行動30分を低強度あるいは中・高強度身体活動に置き換えることで、MetSスコアを始めとする心血管代謝系危険因子の多くに改善効果が期待

解説

この論文は、日本人を対象として、座りがちな時間が長いことが心血管代謝系からみた健康度に悪いことを示しています。
また、座りがちな時間を低強度あるいは中・高強度に置き換えると、心血管代謝系からみた健康度にポジティブな影響が期待できることも示しています。

論文の著者らは、座りがちな時間が長いことが心血管代謝系に弊害を与えるメカニズムについて、先行研究のエビデンスなどをもとに、長時間の座位行動が筋収縮を低下させ、異所性脂肪蓄積が促進されることで、インスリン抵抗性や脂質異常症を引き起こす可能性を指摘していました。

なお、この研究の限界は睡眠時間を調査・定量していないという点です。
そのため、睡眠時間の違いによる影響や、座りがちな時間を身体活動と睡眠時間のどちらに充てた方が良いのかは分かりません。

まとめ

座りがちな時間が多い人はメタボ気味