MMAファイターの試合直前の急速減量(水抜き)が健康面に与える影響

はじめに

階級制が採用されている格闘技の選手(格闘家)は、大会前に減量をします。

今回は総合格闘技(Mixed Martial Arts: MMA)の格闘家(MMAファイター)を対象として大会8週間前から大会後まで身体組成・安静時代謝、最高酸素摂取量、血液プロフィールを経時的に測定した事例研究を紹介します。
本事例で対象となったMMAファイターは、大会8週間前からカロリー制限を行い減量した上で、計量の約1日前から急速減量をしています。

MMA、ボクシング、キックボクシングとった競技では試合前日に計量が行われることが多く、計量後から試合までに体重をいかに戻す(増やす)かが重要視されています。
その理由は、対戦相手より少しでも体重を多くすることが筋力や筋パワー発揮に有利と考えられているからです。
また、計量直前に行う急速減量は、体重の7割近くを占める水分を減らすことで体重を落とすことから「水抜き」と呼ばれています
水抜きは、腎臓への血流量が低下するため、腎機能の低下(急性腎障害)を引き起こす上、格闘家の健康にネガティブな影響を与えることが指摘されています。

論文概要

出典

Kasper, A. M., Crighton, B., Langan-Evans, C., Riley, P., Sharma, A., Close, G. L., & Morton, J. P. (2019). Case Study: Extreme Weight Making Causes Relative Energy Deficiency, Dehydration, and Acute Kidney Injury in a Male Mixed Martial Arts Athlete. International journal of sport nutrition and exercise metabolism, 29(3), 331–338. https://doi.org/10.1123/ijsnem.2018-0029

【対象者のプロフィールと事例の詳細】
・男性プロMMAファイター(年齢:22歳、体重80.2kg、身長1.80m)を対象
・17歳からプロとしての活動を開始
・当時14戦13勝1敗
・通常、年に2-4回の試合出場
・プロキャリア序盤はバンタム級(61.2kg)でその後はフェザー級(65.8kg)に転向
・直近の試合後から本事例の開始前(9週間)の期間では計画的なトレーニングは未実施
・本事例の対象期間中は定期的に身体組成(キャリパー法、DXA法)、安静時代謝、最高酸素摂取量(トレッドミルテスト)、血液プロフィールの測定を実施

【減量の計画と実際】
Phase 1(カロリー制限:8週間前-1週間前)
・8週間前-4週間前はエネルギー摂取量が1500-1900kcal/日(糖質:1.5-2.5g/kg CHO、タンパク質:1.6-1.8g/kg、脂質:0.8-1g/kg)の食事を摂取(水分補給は自由)
・4週間前-1週間前はエネルギー摂取量が1300-1500kcal(タンパク質の摂取量を体重1g/kgに減少)の食事を摂取
・食事はタンパク質を朝、昼、晩で均等配分することを意識
・推定の食物繊維摂取量は18.4g/日、ナトリウム摂取量は2.9g/日
・トレーニングは、週2回1日3セッション、週2回1日2セッション、週2回日1セッション、週1回完全レスト(週当たり2回のストレングス&コンディショニングセッション、8回の特異的トレーニング、2回のスパーリング)

Phase2(ウォーターローディング:1週間前-1日前)
・エネルギー摂取量は1000kcal/日(糖質:0.5g/kg、タンパク質:1.3g/kg、脂質:0.5g/kg)
・計量の2日前まで1日当たり8Lの水分を摂取
・推定の食物繊維摂取量は5.6g/日、ナトリウム摂取量は0.3g/日

Phase3(急速減量:1日前-計量)
・計量前夜の夜6時から20時間の急速減量を開始
・計量まで一切の飲食物を摂らなかった
・水抜き(発汗作業)のサイクルは、首より下を浴槽に使った状態での温水入浴(20分)と毛布とタオルで身を包んだラッピングの繰り返し
・20時間前(1バス+1ラップ、72.3kg)、19時間前(3バス+3ラップ、70.4kg)、6時間前(3バス+3ラップ、67.9kg)、3時間前(2バス+2ラップ、67.0kg)に水抜きを実施

Phase4(水分補給と再補充:計量後-試合前)
・計量から試合までの間隔は32時間
・高エネルギー食を摂取(糖質:15g/kg、タンパク質:3.2g/kg、脂質:2.6g/kg)
・推定の食物繊維摂取量は63g、ナトリウム摂取量は8.5g
・摂取した糖質の大部分(9g/kg)は、計量当日(試合前日)の午後2時から午後11時に摂取
・最後の固形物の摂取は試合の3時間前
・水分摂取は試合直前まで自由摂取

Phase5(リカバリー:試合1日後-2週間後)
・試合後2週間までは自由食を摂取
・計画的なトレーニングの実施なし

【測定結果】
・体重は8週間前が80.2kg、4週間前が77.8kg、1週間前が75.8kg、4日前が77.0kg、3日前が75.5kg、2日前が74.7kg、1日前が73.0kg、計量時が65.7kg、試合5時間前が77.0kg、試合2週間後が83.6kg
・除脂肪量は8週間前が63.5kg、4週間前が65.2kg、1週間前が65.0kg、計量時が53.6kg、試合2週間後が67.2kg
・脂肪量は8週間前が11.7kg、4週間前が9.4kg、1週間前が7.7kg、計量時が6.9kg、試合2週間後が9.7kg
・体脂肪率は8週間前が15.0%、4週間前が12.6%、1週間前が10.6%、計量時が11.0%、試合2週間後が12.2%
・皮下脂肪厚(8部位合計)は8週間前が71.8mm、4週間前が62.8mm、1週間前が51.4mm、2日前が49.4mm、1日前が46.7mm、計量時が42.2mm、試合2週間後が68.3mm
・安静時代謝量は8週間前が1906kcal/日、4週間前が1873kcal/日、1週間前が1575kcal/日、試合2週間後が1978kcal//日
・最高酸素摂取量は8週間前が50.5ml/kg/min、4週間前が55.0ml/kg/min、1週間前が44.9ml/kg/min
・テストステロン濃度は8週間前が13.3nmol/L、4週間前が10.8nmol/L、1週間前が5.3nmol/L、2日前が1.4nmol/L、1日前が3.7nmol/L、計量時が1.8nmol/L、試合2週間後が14.0nmol/L
・コルチゾール濃度は8週間前が478nmol/L、4週間前が464nnol/L、1週間前が502nmol/L、2日前が500nmol/L、1日前が469nmol/L、計量時が1477nmol/L、試合2週間後が380nmol/L
・ナトリウム濃度は8週間前が137mmol/L、4週間前が139mmol/L、1週間前が138mmol/L、2日前が136mmol/L、1日前が136mmol/L、計量時が148mmol/L、試合2週間後が143nmol/L
・クレアチニン濃度は8週間前が102µmol/L、4週間前が113µmol/L、1週間前が123µmol/L、2日前が130µmol/L、1日前が124µmol/L、計量時が177µmol/L、試合2週間後が85µmol/L

解説

本事例で対象となったアスリートは、Phase1で体重が4.4kg減少、体脂肪量が4.0kg減少、皮下脂肪厚が20.4mm減少していました。
この結果は、日々の激しいトレーニングとカロリー制限によって、主に体脂肪を削ることで体重を落としていたと言えます。
また、カロリー制限をしつつもタンパク質の摂取量を確保していたことや、タンパク質を朝・昼・晩と均等に摂取していたことが、除脂肪量の維持に貢献していたと推察できます。

一方、試合直前のPhase3では水抜きによって7.3kgの体重を一気に落としています。
計量時のナトリウム濃度の急激な増加(高ナトリウム血症)は身体が過度な脱水状況であったこと、コルチゾール濃度の急激な増加は身体に著しいストレスがかかっていたこと、クレアチニン濃度の急激な増加は腎機能が一過性に低下したことを示唆しています。

なお、本論文では上記以外にも様々な血液プロフィールを測定しています。

前述したとおり、水抜きは急性腎障害を引き起こすことが知られています。
急性腎障害はときに生命予後に関わることが報告されている上、慢性腎障害にもつながる可能性もあります。

階級制スポーツにおける急速減量の扱いについては、様々な考え方があります。
また、本事例のように1日で5kg以上の過酷な水抜きを行う選手もいる一方、選手によっては試合当日と普段の練習時の体重幅が狭く、過度な水抜きをしない者もいます。
そのスタンスの是非は一概には決められませんが、水抜きが健康に及ぼす影響を理解することは、選手のキャリアや後の人生を豊かにするためにも大切に違いありません。

まとめ

格闘家の計量直前の水抜きは身体に多大なダメージを与える