スポーツウォッチが教えてくれるVO2maxは正しいのか?

はじめに

位置情報や心拍数の計測機能が搭載されたスポーツウォッチは広く普及しています。
その中でもGarmin社のスポーツウォッチは、多くの長距離ランナーに利用されています。

Garmin社のスポーツウォッチの中には、フィットネスの指標である最大酸素摂取量(VO2max)を推定できる機器があります。
本来、VO2maxを計測するには専用の呼気ガス測定機器やマスクが必要であり、誰でも簡単に計測できるものではありません(直接法)。
仮にGarmin社の推定VO2maxが直接法で計測された方法と同等の数値になるのであれば、ランナーにとって魅力的な機能です。

今回は、Garmin社の推定VO2maxと呼気ガス測定機器で計測されたVO2maxとの関係を検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Düking, P., Van Hooren, B., & Sperlich, B. (2022). Assessment of Peak Oxygen Uptake with a Smartwatch and its Usefulness for Training of Runners. International journal of sports medicine, 10.1055/a-1686-9068. Advance online publication. https://doi.org/10.1055/a-1686-9068

※論文内では最高酸素摂取量(VO2peak)と表記されているが、VO2maxと表記
方法
23名の一般ランナー(男性11名、女性12名)を対象

■実験デザイン
1回目のトレッドミルテスト
1回目の屋外ランニング
2回目の屋外ランニング
3回目の屋外ランニング
2回目のトレッドミルテスト

■トレッドミルテスト
ランプ負荷テストと確認テストの2段階で構成
携帯型ブレスバイブレス分析器(Metamax 3B)を用いてVO2maxを計測

■屋外ランニング
Garmin社のスポーツウォッチ(Foreathlete 245)を両手首に装着した状態での一定ペース走
1・ 2回目は30―60分走(最高心拍数の70%以上で数分以上、終了時の主観的運動強度18以上)
3回目は約30分最大努力走(終了時の主観的運動強度19以上)

※推定VO2maxのアルゴリズムの詳細は開示されていないが、心拍数と時間・位置情報をもとに算出される速度がもとになっている

結果
■トレッドミルテストのVO2max
・1回目と2回目の平均変化率4.6%
・1回目と2回目の級内相関係数(ICC)は0.943

■Garmin社の推定VO2max
・1回目が平均49.1ml/kg/min、2回目が平均49.0ml/kg/min、3回目が平均48.3ml/kg/min
・トレッドミルテストのVO2maxを正解値とした際の平均絶対パーセント誤差(MAPE)は5.7%(2.8ml/kg/min)
・推定VO2maxの数値をもとに3群に分けてみると、MAPEは45ml/kg/min以下のグループで7.1%、45―55ml/kg/minのグループで4.1%、55ml/kg/min以上のグループで-6.2%

解説

この論文は、実験室で計測されたVO2maxを正解値とした場合、Garmin社の推定VO2maxは平均で5.7%(2.8ml/kg/min)外れることを示しています。
ただし、対象者のVO2maxの優劣によって傾向が異なり、推定VO2maxは、フィットネスが低いグループでは過大評価傾向(MAPE:7.1%)高いグループでは過小評価傾向(MAPE:-6.2%)にありました。

幅広い走力を持つランナーを対象とすると、VO2maxと走力(パフォーマンス)は強く相関します。
また、心拍数と速度との関係から算出可能な心拍コストは、それ以上の極めて強い相関係数が認められることが多いです。
したがって推定VO2maxはVO2maxではなく、走力を見積もっているといえます。

長距離ランナーが実験室でVO2maxを計測する大きな意義は、走力に対するVO2maxの高低を判断できることにあります。
この場合、ランニングエコノミーも同時に評価することで、エコノミーを伸ばした方が良いのか、VO2maxを伸ばした方が良いのかといった、トレーニング計画を立てる上での参考資料となります。
推定VO2maxのアルゴリズムを踏まえると、同程度の走力を持つが、VO2max・ランニングエコノミーが異なる集団のVO2maxを正確に評価できないと考えられます。
したがって、今までは全力でのタイムトライアルあるいは速度と心拍数のデータをもとに手動計算することで求められた走力が自動推定されるようになったと解釈すべきです。

また、その推定アルゴリズムから、Garmin社の推定VO2maxは心拍数を正確に計測できていることが前提条件にあります。
そしてこの論文は、胸ベルトなど妥当性が認められている計測器ではなく、スポーツウォッチに搭載の光学センサーで心拍数を評価しています。
結果を踏まえると、妥当に測れている可能性が高いように見えますが、スポーツウォッチでは心拍数を正しく測れないこともあります。

加えてGarmin社の推定VO2maxは、運動時間、運動強度、心拍数などいくつかの条件を満たした時に算出される仕組みとなっていますが、推定に相応しくないデータで算出されることもあります。

これらの限界を踏まえると、走力を評価したい場合でも、表計算ソフトなどを用いて自分でそのデータが見積もるのに相応しいデータなのか判断した上で、速度と心拍数をもとに算出した方が推定精度は高くなるといえます。

まとめ

Garmin先生の推定VO2maxはある程度正しいが、使い道がさほどない