ウルトラマラソンレースにおける電解質サプリメント、体重変化、気候とナトリウム異常症との関連

はじめに

長時間スポーツでは、不適切な水分、栄養補給によって血液中のナトリウム濃度が著しく変わることがあります。

血液中のナトリウムは、血圧の維持や神経筋機能の調節といった重要な役割を果たしており、ナトリウム濃度が増えすぎても減り過ぎても良くありません。
運動中に、高ナトリウム血症もしくは低ナトリウム血症が起こると、吐き気、筋肉のけいれん、めまい、疲労などのさまざまな症状が引き起こるとされています。

今回紹介する論文では、ウルトラマラソンランナーを対象として、電解質の摂取計画や水分補給状況、気候とレース後のナトリウム濃度との関連を検証しています。

論文概要

出典

Lipman, G. S., Burns, P., Phillips, C., Jensen, J., Little, C., Jurkiewicz, C., Jarrett, B., Walker, A., Mansfield, N., & Krabak, B. J. (2021). Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia During Ultramarathon Running. Clinical journal of sport medicine : official journal of the Canadian Academy of Sport Medicine, 31(6), e327–e334. https://doi.org/10.1097/JSM.0000000000000832

方法
チリとパタゴニア(2017年)、ナミビア、モンゴル、チリ(2018年)で行われた6ステージのウルトラマラソン(RacingThePlanet、計250km)の80kmステージに出場したランナーを対象(英語を理解できる出場ランナーが対象)

ランナーには水分(10-12kmごとに1.5L)が提供
各ランナーはレース中、衣服、睡眠用具、緊急用具、全飲食物を携帯する必要があった(最低でも2000kcal/日のエネルギーを携帯)

ナトリウム補給の種類、摂取率を含めた水分補給計画や実態を調査

レース前後の体重の変化とレース後の血清ナトリウム濃度を測定
血清ナトリウム濃度による対象者のグルーピング
低ナトリウム血症:135mmol/L未満
高ナトリウム血症:145mmol/L超え

レース前後の体重変化に関するグルーピング
水分摂取過剰:体重増加
適切な水分摂取(euhydration):0-3%までの体重減少
脱水:3%以上の体重減少

レース中の気象データをもとに、気温が24度以上のレースをHotと扱った

結果
266人のランナーが登録
平均年齢43歳、女性61人(36%)
レース時間平均14.5時間

174人(74%)がレース後の血液検査を受けた
164人(62%)がレース後の血液サンプルとアンケート調査を受けた

低ナトリウム血症:11人(6.3%)
高ナトリウム血症:30人(17.2%)
正常ナトリウム:130人(76.4%)

■高ナトリウム血症のランナーの特徴
低ナトリウム血症のランナーに比べて脱水者が多かった

■低ナトリウム血症のランナーの特徴
高ナトリウム血症のランナーに比べて、水分摂取過剰者が多かった

給水計画やナトリウムのサプリメントの種類、体重の変化、総ナトリウム摂取量、ナトリウムの摂取率:群間差なし

ホットなレース環境だと涼しい環境に比べて、低ナトリウム血症、高ナトリウム血症のオッズ比が高くなった

解説

この論文は、80kmのウルトラマラソンレースに出場したランナーを対象とした結果、41人(約25%)のランナーのレース後のナトリウム濃度が異常だったことを報告しています。
具体的には、41人のうち、11人が低ナトリウム血症、30人が高ナトリウム血症でした。

そして、高ナトリウム血症のランナーは脱水気味で、低ナトリウム血症のランナーは水分を取りすぎ気味でした。

また、ナトリウムバランスの不均衡の多くは暑いレース中に発生していた一方、電解質サプリメントの摂取方法や種類などは、何ら関係していませんでした。
各ランナーは、様々な水分補給計画をとっていましたが、実際にはレース後のナトリウム濃度にほとんど影響していませんでした。

総じて、この研究は電解質サプリメントにメリットがあるのか疑問を投げかけています。

まとめ

ウルトラマラソンにおける電解質サプリメントの摂取は、低ナトリウム血症の予防効果もなく、高ナトリウム血症を引き起こすこともなかった