【温故知新シリーズ8】スタティックストレッチ後のランニングの経済性とパフォーマンス
はじめに
動きの少ない静的なストレッチ(スタティックストレッチ)は筋肉の力発揮能力や筋腱スティフネスを一時的に下げることが知られています。
そして、筋肉の力発揮能力や筋腱スティフネスは、ランニングの経済性(ランニングエコノミー)を規定する要因です。
そのため、「ランニング前にスタティックストレッチを行うと、ランニングエコノミーが悪化し、良い影響をもたらさない可能性がある」といった主張が数年前から広まってきたように感じます。
今回は、10年以上前に発表されたランニングの前にスタティックストレッチを実施することで、ランニングエコノミーが悪化し、パフォーマンスも下げることを明らかにした論文を紹介します。
論文概要
出典
Wilson, J. M., Hornbuckle, L. M., Kim, J. S., Ugrinowitsch, C., Lee, S. R., Zourdos, M. C., Sommer, B., & Panton, L. B. (2010). Effects of static stretching on energy cost and running endurance performance. Journal of strength and conditioning research, 24(9), 2274–2279. https://doi.org/10.1519/JSC.0b013e3181b22ad6
方法
男性ランナー10名を対象(最大酸素摂取量の平均値:63.8ml/kg/min)
対象者は実験室に3回来室
ランニングはトレッドミルで実施1回目は最大酸素摂取量を決めるための漸増負荷試験と65%最大酸素摂取量のランニングスピードを決めるための最大下テストなどを実施
2回目と3回目はストレッチ条件とストレッチなし条件でのトライアルを実施
■トライアルの内容
①シット&リーチテストで柔軟性を評価
②16分間のストレッチ条件あるいはストレッチなし条件を実施
③シット&リーチテストで柔軟性を評価
④30分@65%最大酸素摂取量のランニングを実施(Preload run)
⑤30分間のタイムトライアル(なるべく長い距離を走るように指示)を実施(Performance run)Preload Runは30分間を通して呼気ガス測定を実施
ストレッチ条件:
5種目×4回×30秒
4種目は左右別に実施、合計16分間
主な対象筋群は、股関節伸展筋群、股関節屈曲筋群、膝関節屈曲筋群、膝関節伸展筋群、足関節底屈筋群非ストレッチ条件
座位姿勢で16分間待機結果
数値は平均値■柔軟性
非ストレッチ条件:変化なし(25.2cm→25.5cm)
ストレッチ条件:ストレッチ後に増加(24.7cm→27.2cm)■ランニングエコノミー(Preload runのエネルギー消費量)
非ストレッチ条件に比べ、ストレッチ条件で多い(405kcal対425kcal)
10名中8名がストレッチ条件で多い(絶対値の差は4-47kcal)■パフォーマンス(Performance runの距離)
非ストレッチ条件に比べ、ストレッチ条件で短い(6.0km対5.8km)
10名中8名がストレッチ条件で短い(絶対値の差は0.2-0.5km)
解説
一過性のスタティックストレッチがランニングエコノミーを悪化させることを主張する際に引用されることの多い論文です。
結果は明確なものの、実際のランニング現場において、「5種目×4回×30秒、4種目は左右別に実施、合計16分間」といった静的なストレッチをすることは稀です。
したがって、この結果の外的妥当性は必ずしも高くありません。
実際、近年の研究では、「一過性の静的ストレッチによる悪影響は無視できる範囲」とする見解が増えているようにも思います。
仮に静的なストレッチがランニングエコノミーを悪化させるとしても、それは沢山エネルギーを消費できることを意味するので、痩せるためにはむしろ効率の良い運動と言えるのかもしれません。
まとめ
下半身のスタティックストレッチを10分以上した後に走ると、ランニングエコノミーが悪くなるときがある