マラソンで足が攣るのは脱水や電解質不足が原因ではない模様

はじめに

マラソンやトライアスロンといった持久系スポーツのレース中に足が攣る人は多いです。
この現象は、学術的には運動誘発性筋痙攣(Exercise-associated muscle cramps:EAMS)と呼ばれています。

EAMSの発生メカニズムに関する研究は、従来から行われていますが、最近では単一要因ではなく、いくつかの要因が複雑に組み合わさり発生していると考えられています。
しかし、アスリートやスポーツ愛好家の中には、脱水や電解質不足によってEAMSが起こると信じ切っている者もいます。

今回紹介する論文は、フルマラソンでEAMSが起こったランナーと起こらなかったランナーでどういった特徴の違いがあったのか検証しています。

論文概要

出典

Martínez-Navarro, I., Montoya-Vieco, A., Collado, E., Hernando, B., Panizo, N., & Hernando, C. (2022). Muscle Cramping in the Marathon: Dehydration and Electrolyte Depletion vs. Muscle Damage. Journal of strength and conditioning research, 36(6), 1629–1635. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000003713

方法
Valencia Trinidad Alfonso EDP 2016 Marathonに出場した98名のランナーを対象
最終的なデータ分析者はレースを完走し測定が完了できた84名(男性72名、女性12名)
平均完走時間:3時間34分20秒

測定・評価項目は下記のとおり
■トレーニング・レース経験
ランニング経験年数、マラソンの完走回数、週当たりのトレーニング頻度、週当たりのトレーニング時間、週間走行距離、過去3カ月のストレングストレーニング実施の有無、過去3カ月の怪我の有無など

■心血管系フィットネス
レースの2-4週間前にトレッドミルでの呼気ガステストを実施

■レース強度
呼気ガステストで得られた第二の換気性閾値の走行速度に対するレース速度(%VVT2)
呼気ガステストで得られた最高走行速度に対するレース速度(%Vmax)

■水分補給状況
尿比重(レース日の起床時とレース直後)
体重(レース前後)

■血液サンプル
LDH、CK、ナトリウム、カリウム(レースの前、直後、24時間後)

■EAMC
対象者の症状をもとに経験豊富なスポーツ医がEAMCの有無を評価

結果
20名(24%)のランナーがレース中あるいはレース後にEAMCを発症

以下はEAMC発症者(Crampers)と非発症者(Noncrampers)の比較
尿比重、体重、ナトリウム、カリウム:群間差なし

CK、LDH:直後、24時間後でCrampersが高値

ストレングストレーニングの実施の有無:Noncrampersの実施率が高い傾向(Crampers:25%、Noncrampers:47.6%、p = 0.074)
(その他のトレーニング指標は有意差なし)

%VVT2、%Vmax:25kmあるいは30km以降でNoncrampersが低値

解説

この論文はフルマラソンでEAMCが起きたランナーと起きなかったランナーを比較した結果、脱水や水分補給状態に関する指標(尿比重、体重、ナトリウム、カリウム)には差がなかったことを明らかにしています。
足攣り予防に「塩分・電解質」と言いたげな塩飴や塩分サプリを発売するメーカーには残念な結果ですが、多くの文献が同様の結果を報告していることから、こういった商品には効果が期待できない気がします。

一方で、EAMCを起こしたランナーは、筋ダメージの指標であるCK、LDHがレース後に高値を示していました。
また、攣らなかったランナーは、ストレングストレーニングの実施率が高い傾向にありました。
ランニングに関するトレーニング状況に群間差がなかったことから、ストレングストレーニングによって筋肉を鍛えることで、レース中の筋ダメージが軽減でき、それがEAMCの発生を防げる可能性がありそうです。

また、この論文はレース前に呼気ガス測定を伴うトレッドミルテストを行うことで、レース中の相対強度を定量している点に価値があります。
その結果、EAMCが起きたランナーはレース前半に相対的に早いペースで走っているわけではないのにも関わらず、レース中盤以降にその強度が保てていませんでした。
筋ダメージに関する指標の結果を踏まえると、一般ランナーでは筋ダメージを軽減することがレース後半のペース維持に貢献する可能性がありそうです。

この論文は観察研究のため、EAMCと筋ダメージとの関連を含めて詳細な因果関係を追及することはできません。

まとめ

フルマラソンで攣るランナーは塩分不足に陥っているわけではない