両側性vs片側性 持久系サイクリストのパフォーマンスに効果的な筋トレは?

はじめに

自転車競技や陸上競技の中長距離走、ボート競技といった持久系スポーツの競技力向上には、持久系トレーニングに加えて、レジスタンストレーニングを並行実施する同時トレーニング(コンカレントトレーニング)が有効です。

コンカレントトレーニングで持久系パフォーマンスが効果的に向上する理由は、エコノミーの改善や神経筋系の適応による最大スピードやスプリント能力の向上などが関与しています。

今回はコンカレントトレーニングにおけるレジスタンストレーニングに関する興味深い論文をみていきます。

多くの競技スポーツは四肢を片方ずつ動かす片側性(ユニラテラル)の動作です。
一方、レジスタンストレーニングは、バーベルスクワットやヒップスラスト、レッグプレスといった通常は両側に同じ負荷をかけて行う両側性(バイラテラル)のものがあります。

スポーツ科学の専門用語に「sport-specific training」があります。
Sport-specific trainingの定義は諸説あるものの、トレーニング種目のバイオメカニクス的特徴を実際のスポーツ動作に類似させることで、競技パフォーマンスの向上が効果的に果たせる可能性があるとされています。
(ただし、見た目の類似性とバイオメカニクス的特徴の類似性はイコールでない)

そこで今回は自転車の競技特性を踏まえて、両側性よりも左右交互に実施する片側性のレジスタンストレーニングにおいて、効果的にパフォーマンスを改善すると仮説を立て、片側性と両側性のレジスタンストレーニングの効果を比較検証した論文を紹介します。

論文概要

出典

Ji, S., Donath, L., & Wahl, P. (2021). Effects of Alternating Unilateral vs. Bilateral Resistance Training on Sprint and Endurance Cycling Performance in Trained Endurance Athletes: A 3-Armed, Randomized, Controlled, Pilot Trial. Journal of strength and conditioning research, 10.1519/JSC.0000000000004105. Advance online publication. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000004105

方法
24名(男性21名、女性3名)のナショナルレベルのトライアスリート・サイクリストを対象
対象者は実験開始前6カ月以上にわたりレジスタンストレーニングを未実施

対象者はランダムに下記3群に分類
・両側性群(Simultaneous Bilateral: BIL)
・片側性群(Alternating Unilateral: AUL)
・コントロール群(Control: CON)

トレーニング介入の詳細は下記のとおり
期間:10週間
頻度:2回/週
種目:レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカール
強度:75-90%1RM(強度が高い日は量が少なく、強度が低い日は量が多い)
セット:4セット
セット間の休息時間:2-3分
収縮時間:
BIL:2秒/回(短縮性1秒、伸張性1秒)で反復回数ごとに2秒の待機時間
AUL:片脚交互に2秒/回

※持久系トレーニングは普段のトレーニングプログラムを維持するように指示

介入期間前後の測定項目は下記のとおり
・最大下漸増負荷試験
→160W、180Wのサイクリングエコノミー(酸素摂取量)

・15秒スプリントテスト
→ピークパワー、平均パワー、加速指数、最大血中乳酸濃度

・最大漸増負荷試験
→最大酸素摂取量、最大パワー、最大血中乳酸定常状態(MLSS)のパワー

・最大随意等尺性収縮(MVIC)
レッグプレス、レッグエクステンション、レッグカール
(各種目で両側性・片側性を測定)

・疲労困憊までの運動持続時間(Time to exhaustion)
各対象者の閾値を考慮した強度(約80%VO2max)での運動持続時間
(介入期間前後で各対象者の絶対強度は統一)

結果
※数値は平均値

・トレーニング介入期間中の持久系トレーニングの量、強度の配分に群間差なし

・MVICはBIL・AULで両側性・片側性ともに増加、ただしレッグエクステンションの両側性の増加はBILで著しい傾向

・体重・除脂肪量はBILで増加

・サイクリングエコノミーはBILで増加

・15秒スプリントテストのピークパワー、加速指数はCONで低下、AULで平均パワー・加速指数は増加傾向

・Time to exhaustionはBIL・AULで増加

解説

この論文は主にサイクリストを対象として、片側性と両側性の高重量レジスタンストレーニングの効果を比較検証しました。
その結果、両トレーニングともに持久系パフォーマンスの指標であるTime to exhaustionを向上させました。
ただし、持久系パフォーマンスの向上のメカニズムは、片側性と両側性では異なる可能性が示されました。

最大筋力を表すMVICは、両トレーニングで向上しました。
ただし、両側性のレッグエクステンションのみBIL、すなわち両側性でトレーニングした方が著しい増加傾向がありました。
また、体重・除脂肪量(約2kg)やサイクリングエコノミーも両側性トレーニングでのみ増加しました。
したがって、両側性トレーニングでは筋肥大・筋力増加に伴うサイクリングエコノミーの改善によって持久系パフォーマンスが改善したと考えられます。

一方、片側性トレーニングでは15秒スプリントに関する指標で効果が認められました。
論文の著者らは、片側性トレーニングの強度は片側性1RMをもとに設定されたことや、片側性運動では両側性筋力低下(両側性の出力は、片側ごとの出力の合計に比べて低くなる)の影響を受けないために、高い筋力発揮でトレーニングができたことが影響した可能性を指摘しています。
また、片側性トレーニングでは、身体の安定性を効果的に高める可能性があることを踏まえ、自転車運動中の身体の安定性が向上したこともパフォーマンスに関与したと考察しています。

総トレーニング量(kg)や強度(%1RM)が同等にも関わらず、片側性トレーニングで体重や除脂肪量が変化しなかった原因は不明です。
日々の食事量の違いなどが影響している可能性が考えられますが、詳細は不明です。
また、この論文では統計学的に交互作用がなかった指標も多く、結果の解釈には注意を要します。
しかし、非常に示唆に富む論文であることは間違いなく、多くのアスリートにとって参考となる論文に違いありません。

まとめ

持久系アスリートのレジスタンストレーニングは片側性と両側性で異なった効果をもたらすかもしれない