ワールドクラスのサイクリストは競技経験の蓄積に伴い効率が良くなる

はじめに

持久系パフォーマンスを説明する生理学要因として、エネルギーの経済性(エコノミー)あるいは効率(エフィシェンシー)があります。
ランニングでは経済性、自転車では効率という単語がよく使われます。
ただし、自転車競技でも「サイクリングエコノミー」、陸上競技でも「動きの効率」といったように、必ずしも単語は統一されていません。

今回紹介する論文では、プロサイクリストの5年間にわたる最大酸素摂取量(VO2max)とサイクリングエコノミーの指標であるデルタ効率の変化を検証しています。

論文概要

出典

Santalla, A., Naranjo, J., & Terrados, N. (2009). Muscle efficiency improves over time in world-class cyclists. Medicine and science in sports and exercise, 41(5), 1096–1101. https://doi.org/10.1249/MSS.0b013e318191c802

方法
ツール・ド・フランスなどの世界最高峰のステージレースに出場経験を有する12名のプロサイクリストを分析対象
対象者は毎年、同時期に同施設で同プロトコルの漸増負荷試験を実施
本研究は1年目と5年目のデータを分析

■漸増負荷試験の方法
自転車エルゴメーター利用
100Wから4分ごとに50W負荷を漸増させ、オールアウトに至るまで実施
回転数は対象者の好み
呼気ガスはガス分析機(Vmax 29)によって計測

■データ分析
VO2maxは漸増負荷試験中の最も高い30秒のデータを利用
効率はデルタ効率(DE)によって評価
DEとは、一定の外的仕事量に対するエネルギー消費量と次の外的仕事量とエネルギー消費量のそれぞれの増加分の比率によって評価、数値が高いほど効率が高いという解釈になる
DEは、100Wから呼吸交換比が1.0未満の強度の最後の30秒の呼気ガスデータによって分析

結果
DEの平均は5年間で23.61%から26.97%へ増加
VO2は絶対値(5189.3ml/min→5114.4ml/ min)、相対値(75.5ml/kg/min→75.3ml/kg/min)ともに5年間で有意な変化なし

1年目のVO2maxとDEに有意な相関関係がなかったのに対し、5年目には有意な負の相関関係があった(VO2maxが高い人ほどDEが低い傾向)
5年間のDEの変化率と5年目のVO2maxとの間にも有意な負の相関関係があった(5年間でDEが改善した人は5年目のVO2maxが低い)

解説

15年近く前に発表されたこの論文は、競技力の高いサイクリストたちを対象として、生理学指標の縦断変化を報告しています。
生理学指標の縦断変化を報告した研究は、横断関係を報告した研究に比べると数少ない上、競技力の高い選手の報告はさらに限りがあります。
加えて、競技力の高い選手を対象とした研究は、事例報告も多いため、12名を対象としたこの研究は価値があります。

この研究の別の長所は、同一条件で実験をしている点です。
実験機材、実験プロトコルなどの諸条件が変わってしまうと、縦断的に生理学的指標を計っていたとしても、何によって数値が変わったのか分からなくなってしまうため、非常に大切なポイントです。

得られた結果は、「エリート持久系アスリートは、VO2maxでなく、経済性・効率を改善することで持久系パフォーマンスを高めている」と、よく言われる俗説を支持するものです。

まとめ

エリートサイクリストはVO2maxではなく効率に伸び代がある