持久系アスリートにおけるストレングストレーニングの効果は脱トレーニング後もしばらく持続する可能性

2022年4月27日

はじめに

持久系アスリートは、ストレングストレーニングを行うことでエコノミーや最大スピード(最高走行速度、最高出力)の向上が期待できます。

以前、サイクリストがストレングストレーニングを実施すると、下肢の最大筋力が増加するだけでなく、長時間サイクリング終盤の生理負荷が軽減し、その後のラストスパートのパワーが向上したエビデンスを紹介しました。

今回紹介する論文では、サイクリストがストレングストレーニングを行うことによって得られる効果がストレングストレーニングを中止(脱トレーニング)後でも持続するのか検証しています。

論文概要

出典

Bláfoss, R., Rikardo, J., Andersen, A. Ø., Hvid, L. G., Andersen, L. L., Jensen, K., Christensen, P. M., Kvorning, T., & Aagaard, P. (2022). Effects of Resistance Training Cessation on Cycling Performance in Well-Trained Cyclists: An Exploratory Study. Journal of strength and conditioning research, 36(3), 796–804. https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000004204

方法
過去6ヶ月ストレングストレーニングを実施していない男性サイクリスト10名を対象

ストレングストレーニングの実施期間:8週間
その後のストレングストレーニング未実施期間:6週間
持久系トレーニングの負荷(量・強度):実験期間中をとおして一定
測定タイミング:
ストレングストレーニング期間の前(Pre)、直後(Post 0)、3週間後(Post 3)、6週間後(Post 6)

■ストレングストレーニング
○頻度
2-3回/週

○種目
スクワット、アブドミナルクランチ、片脚レッグプレス、バックエクステンション、プランク

○強度
スクワット、片脚レッグプレス:8-10RMから4-6RMへ徐々に強度漸増
アブドミナルクランチ、バックエクステンション:常に10RMになるように重量漸増
プランク:常に1分間の持続時間になるように重量漸増

○セット数
スクワット、片脚レッグプレス、アブドミナルクランチ、バックエクステンション:4セット
プランク:3セット

○休息時間
スクワット、片脚レッグプレス:3分
アブドミナルクランチ、バックエクステンション、プランク:1.5分

収縮時間:2-3秒(伸張性収縮)/可能な限り早く(短縮性収縮)

■測定
○最大筋パワー、最大筋力(MVC)、力の立ち上がり率(RFD)
いずれも脚伸展動作で測定

○最大酸素摂取量、最大出力(Wmax)
(サイクリングの漸増負荷試験で評価)

○長時間+5分マックステスト
長時間サイクリング(120分、プレの漸増負荷試験の55%Wmax強度)を実施
長時間サイクリングの終了直後に5分マックステストを実施
長時間サイクリング中、30分ごとに酸素摂取量、呼吸交換比、心拍数、主観的強度(RPE)、血中乳酸濃度を測定
5分マックステストは平均パワーとRPEを測定
※長時間サイクリング中は120g/Lの糖質が含まれた飲料を自由に摂取可

結果
最大筋パワー
Post0で12%増加、Post3でPreと同水準に低下

RFD
Post0で17%増加、Post3で低下傾向、Post6でPreと同水準に低下

MVC
Post0で15%増加、Post6まで持続

5分マックステストの平均パワー
Post0で7%増加、Post6まで持続

長時間サイクリング中の酸素摂取量
時間帯によるがPost0で減少、Post6まで持続

長時間サイクリング中の心拍数
時間帯によるがPost3・6で減少傾向

長時間サイクリング中の呼吸交換比
時間帯によるがPost0で増加、Post6まで持続

解説

この論文は、コンカレントトレーニングとして行われたストレングストレーニングによって得られる持久系の生理応答(エコノミーの向上)やパフォーマンス(5分オールアウトの平均パワー)の向上効果が脱トレーニング後も最低6週間持続することを示唆しています。

数週間であれば、ストレングストレーニングを一時的に中断しても、パフォーマンスにさほど負の影響を与えなさそうです。
持久系アスリートの中には、毎週のように開催されるレース出場や遠征によって、試合期では十分なストレングストレーニングを実施できないケースもあるため、そういった事情に陥るアスリートに勇気を与える結果です。

ただし、シングルケースデザインという実験の特性上、Post0で認められた効果が本当にストレングストレーニングによって得られたものなのか判断しがたい部分があります。
また、当然ながら、持久系アスリートの主練習とも呼べる持久系トレーニングも脱トレーニングに陥ると、今回のような結果にはならないと想定されます。

まとめ

持久系アスリートは数週間であれば、ストレングストレーニングを中断してもパフォーマンスへの負の影響はなさそう