サイクリストは競技期でもストレングストレーニングはやめない方が良い

はじめに

以前紹介した論文のとおり、持久系アスリートがストレングストレーニングを行うことによって得られた恩恵は、ストレングストレーニングをやめてしまうといずれ消失します。

そのため、ストレングストレーニングは競技期でも続けた方がベターです。

一方で、度重なるレースや移動、宿泊環境の変化など、トレーニング・レースによる負荷やそれ以外の負荷がカオス化しやすい競技期において、準備期と同等負荷のストレングストレーニングを続けるのも難しいのが実際です。

今回紹介する論文は、競技期において、ストレングストレーニングの負荷を調整することの意義を示唆しています。

論文概要

出典

Rønnestad, B. R., Hansen, E. A., & Raastad, T. (2010). In-season strength maintenance training increases well-trained cyclists’ performance. European journal of applied physiology, 110(6), 1269–1282. https://doi.org/10.1007/s00421-010-1622-4

方法
12名の持久系サイクリスト(ナショナルレベル)を対象

■実験デザイン
準備期:12週、競技期:13週
対象者は下記の2群に割り当て
・実験群(エンデュランス+ストレングス)
・対照群(エンデュランス)

■トレーニング
持久系トレーニングの負荷は時間と心拍数をもとに定量
トレーニング時間(総合、強度別)に群間差なし

実験群のみ下記のストレングストレーニングを実施
〇準備期
頻度:2回/週
種目:ハーフスクワット、ワンレッグレッグプレス、ワンレッグヒップフレクション、アンクルプランターフレクション
強度:4-10RM
セット数:3

〇競技期
頻度:1回/週
種目:準備期と同じ
強度:ハーフスクワットとワンレッグレッグプレスは80-85%、その他は6RM
セット数:ハーフスクワットとワンレッグレッグプレスは2、その他は1

■測定・評価
準備期前、準備期後、競技期後に実施

・大腿の筋横断面積(CSA)
・スミスマシンを用いたハーフスクワットの1RM
・漸増負荷試験(血中乳酸プロフィール、最大酸素摂取量など)
・ウインゲートテスト
・40分タイムトライアル

結果
体重は両群ともに有意な変化なし

CSAは実験群で12週後に増加、25週後でその状態が維持

1RMは実験群で12週後に増加、25週後でその状態が維持

最大酸素摂取量は両群ともに増加

漸増負荷試験のWmaxは実験群で25週後に増加

サイクリングエコノミーは実験群では変化なし、対照群では悪化(酸素摂取量の増加)

40分TTの平均パワーは両群ともに12週後、25週後に増加
ただし、25週の増加は実験群の方が顕著

解説

この論文は、エリート持久系サイクリストを対象とした場合、準備期に週2回、競技期に週1回、ストレングストレーニングを実施することで、持久系パフォーマンスへの適応が最大化する可能性を示唆しています。

この研究も、持久系アスリートを対象とした他の研究と同じく、筋横断面積(局所)でみると肥大が認められましたが、体重(全体)は変化していませんでした。
持久系アスリートは筋トレで体重が増えることは気にしなくて良さそうです。

また、この論文では実験群であっても、サイクリングエコノミーの改善が認められませんでしたが、維持は出来ていました。
一般に、最大酸素摂取量とエコノミーは逆相関関係が認められること、対照群のサイクリングエコノミーが悪化していることを踏まえると、最大酸素摂取量が増加したのにも関わらず、ランニングエコノミーが悪化しなかったことはポジティブな適応と言えるのかもしれません。

実験群の動的筋力(1RM)は12週後から25週後にかけて有意な変化がありませんでした。
一方、Wmaxや40分TTの平均パワーは25週後で最も優れていました。
これは、両者の関係は単純ではないことを意味しています。

まとめ

サイクリストがストレングストレーニングを実施することによる恩恵は競技期も続けることで得られる